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伝説の試合、山中慎介×岩佐亮佑。
クロス一閃、王者がぐらついた──。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2020/07/02 11:00
後にいずれも世界王者となった岩佐(左)と山中。大きな注目を集めた一戦、序盤は岩佐がポイントで優位に立っていた。
ともに無敗、予想は真っ二つに分かれた。
28歳の山中は13勝9KO2分け。遅咲きながら左ストレートを武器に7連続KO中と勢いに乗る。
一方、21歳の岩佐は高校3冠の鳴り物入りで8勝6KO。半年前に「最強後楽園」トーナメントを制して、トップコンテンダーとなった。
気持ちを沸点まで高めていたのは岩佐とて同じ。
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<今の勢いのまま飲みこんでやる>
異様なほどの会場の盛り上がりは闘志に変換された。重圧の欠片もなかった。
ともに無敗、そして勝った者が世界挑戦の切符をつかめるという分かりやすい構図。サウスポー同士の日本バンタム級頂上決戦の予想は真っ二つに分かれていた。
静かなスタートながらも瞬時にして一触即発となるような緊張感が、後楽園の沸点を抑え込んでいた。
戸惑いを覚えていたのは岩佐のほう。
ジャブの差し合い。言葉にするなら刺し合いが相応しい。
1分を経過したところで山中が速いジャブをダブルで突く。拳をしっかり握って打つ“固いジャブ”を意識していた。
「僕のジャブは拳の力を伝えるようにガツッと打つ。対サウスポーは嫌いじゃない。ジャブは右肩を入れることができるから伸びるんです。
自分の動き自体は最初、硬いなとは思いましたけど、ジャブの感触は良かった。ジムでスパーリングをしても世界チャンピオンの粟生(隆寛)から『タイミングが分からない。やりづらい』と言われていて、サウスポーに有効なんやなって自信はあったんです」
高速ジャブの刺し合いは、分かりやすい優劣を映し出さない。だが戸惑いを覚えていたのは岩佐のほう。右目付近が赤くなっていた。山中の左ではなく、内側から飛び出してくる右ジャブを受けてできたものだった。