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伝説の試合、山中慎介×岩佐亮佑。
クロス一閃、王者がぐらついた──。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2020/07/02 11:00
後にいずれも世界王者となった岩佐(左)と山中。大きな注目を集めた一戦、序盤は岩佐がポイントで優位に立っていた。
重くて固いジャブに“やべえ”。
岩佐はこう振り返る。
「いつももらわないはずのジャブをもらっている。その事実だけで“やべえ”と思いました。それにジャブが重いし、固いなって。昔、山中さんが日本ランカーのときに一度スパーをやったことがありましたけど、左が強いイメージはあってもこの重くて固いジャブの印象はさほどなかった」
山中は“感触がいい”、岩佐は“やべえ”。
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だが1ラウンドのハーフタイムを過ぎてから岩佐が攻勢に出る。ワンツーをヒットさせ、残り30秒あたりで山中の打ち終わりに右フックを合わせて頬を捉えた。
さらにはコーナーに押し込みながらのワンツー。本来は遠いレンジを得意とするが、前に出て打ち合いを挑むアグレッシブさによってポイントを引き寄せる。
「このジムにチャンピオンベルトを」
“やべえ”は焦りを呼ぶと同時に向かっていく気持ちを生み出していた。山中のパンチに瞬時に合わせていくそのセンスは一級品であることを実証。とはいえラウンドの最後は山中が連打で逆に押し戻している。
期待を裏切らない。いや期待を上回りそうな激闘の予感。
岩佐が歓声を受けて青コーナーに戻ると、セレスジムの会長でメーントレーナーを務める小林昭司が諭すように言った。
「いいよ、いい感じだ。でもジャブをもらっている。距離が近い。もう少し離れて戦おうぜ」
元世界チャンピオンの指摘に愛弟子はうんうんと頷く。自分が思っていることを言ってくれる。セレスジムが誕生して初のタイトルマッチ。「このジムにチャンピオンベルトを」と思うだけで気持ちが一層高まっていく。