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伝説の試合、山中慎介×岩佐亮佑。
クロス一閃、王者がぐらついた──。
posted2020/07/02 11:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
(第2回「死闘の中盤。山中慎介は鼓膜が破れ、岩佐亮佑は『何か星が飛んで……』」、第3回「山中慎介、劇的な勝利。岩佐亮佑は『“倒れさせてくださいよ”って』」は記事最終ページ下にある「関連記事」からご覧ください)
拳を交えたなかで忘れられない闘いというものが、ボクサーなら誰にもある。
WBC世界バンタム級王座を12度防衛して引退した山中慎介は引退会見において世界戦ではなく、岩佐亮佑(現IBF世界スーパーバンタム級暫定王者)との日本タイトルマッチをその1つに挙げた。
9年前、世界挑戦権を懸けて両雄は無敗同士でぶつかった。遅咲きのハードパンチャーと、高校3冠のホープの一戦はわずか2時間でチケットが完売するという注目度の高さであった。
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勝った者が強い。それがプロボクシングの世界だ。
しかし勝者となった山中が後に世界の名王者となっただけでなく、ここでは敗者となった岩佐も紆余曲折を経て世界王者に2度たどり着き、今、充実期を迎えている。
2人にとってあの一戦は、どんな意味があったのか。
日本人対決、その名勝負の裏側――。
何だよ。チャンピオンはどっちなんだよ。
始まってもいないのに、会場の興奮は後楽園ホールにまるで収まっていない。
2011年3月5日、日本バンタム級タイトルマッチ。ファンは待ち切れないとばかりに足を踏み鳴らし、声を張り上げて後楽園ホールを揺らしていた。
王者・山中慎介は入場曲を声援でかき消されながら赤コーナーサイドから出てくると、先にリングインしていた岩佐亮佑に目をやった。
チャンピオンは裸でタオル、チャレンジャーは洒落たガウン。トランクスもチャンピオンカラーの「赤」に寄せてきている。
<何だよ。チャンピオンはどっちなんだよ>
内心のつぶやきは闘志に変換される。リングに上がった瞬間に、気持ちを沸点まで引っ張り上げる。コールの後でレフェリーの前で向かい合い、グローブを合わせる。チャレンジャーの両拳を、ぐぐっと押し込んでコーナーに戻った。