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《2回TKOの圧勝劇》井上尚弥のあまりの強さに“ドネアに感情移入”する観客も… 大橋会長は感嘆「正直、調子はあまり良くなかった」
posted2022/06/08 12:00
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
バンタム級3団体王座統一戦が7日、さいたまスーパーアリーナで行われ、WBAスーパー&IBF王者の井上尚弥(大橋)がWBC王者のノニト・ドネア(フィリピン)に2回1分24秒TKO勝ち。日本人選手で初めて3団体統一をはたした。
ドネアの左フックで目を覚ました“モンスター”
今回はドラマにならない。圧倒的に勝つ――。
“モンスター”井上が有言実行で3団体統一をはたした。両者は2019年11月、各団体のチャンピオンが複数集まったトーナメント戦、WBSSバンタム級決勝で対戦して井上が判定勝ちで優勝。ただし井上が“フィリピーノ・フラッシュ”の異名を持つドネアの左フックで2回に右眼窩底骨折を患い、激闘の末に勝利するというドラマティックな内容だった。
井上はこの試合で打たれ強さと逆境でのタフネスぶりを証明したものの、キャリア最大の苦戦を納得できずにいた。第1戦でドネアはすでに36歳。引導を渡すつもりが5階級制覇のレジェンドをよみがえらせてしまったという思いが強く、今回は冒頭の「圧倒的に勝つ」という決意につながっていた。
2年7カ月ぶりにリングで対峙したドネアを見て、井上は「体重が戻りきっていない印象を受けた。同時にスピードで勝負してくるのかなと思った」と試合後に明かしている。試合当日に計測した体重は井上が前回を1.5キロ上回る59.0キロ、ドネアは第1戦と同じ58.5キロ。当日体重がどれだけ試合に影響を与えたかは分からないが、微妙な差を井上が感じていたことは確かだった。
試合開始のゴングを聞いた井上は、いきなりオープニングブローでドネアの伝家の宝刀、左フックの洗礼を浴びることになる。ダメージをもらうほどのパンチではなかったが、「緊張感が高まった」という一撃だった。
たちまち気持ちを引き締めた井上はフットワークとジャブで距離を取り、慎重にドネアの動きを観察した。ドネアは前掛かりだ。井上はドネアがプレスをかけ、手を出させて得意のカウンターを狙う作戦を想定しており、距離をキープして容易にカウンターを許さない。しかし残り40秒、井上がジャブ、右ストレート、左フックを打ち込むと、ドネアが待ってましたとばかりにリターンを打ち込んで、攻防が一気にヒートアップした。