炎の一筆入魂BACK NUMBER

大瀬良大地の1球目は「シュート」。
広島バッテリーの決断に驚かされた。 

text by

前原淳

前原淳Jun Maehara

PROFILE

photograph byKyodo News

posted2020/06/22 19:00

大瀬良大地の1球目は「シュート」。広島バッテリーの決断に驚かされた。<Number Web> photograph by Kyodo News

開幕戦、12球団最速で完投勝利をあげた大瀬良大地。2020年の第1球目に選んだのは、新球の「シュート」だった。

「状態が良くない」ほうが厄介?

 完投勝利した開幕戦後、大瀬良は「状態自体はあまり良くなかった」と苦笑いした。

 個人的には大瀬良評で「調子がいい」ときよりも、「状態が良くない」ときのほうが相手にとっては厄介なのではないかとみている。

 調子がいいときは配球というよりも、優先順位の高い真っすぐとカットボールで押せてしまう。もちろん、それで抑えることも多々ある。だが、スライダーやフォーク、カーブ、そして新たに加えたシュートを意図を持って交えることで、投球がまた味わい深いものになっているように感じる。

 対戦相手からすれば「調子が良くないのでは」と思っても、その先入観を捨てた方がいいかもしれない。

森下の白星お預けは、大瀬良も。

 開幕3戦目は、新人・森下暢仁が7回4安打無失点で勝ち投手の権利を得ながら、9回に逆転負けを喫して初勝利がお預けとなった。遡ること6年前の2014年4月2日ヤクルト戦。7回2失点で手にしたプロ初勝利の権利を同じ9回に失った経験をしたのが、大瀬良だった。

 力投型から、中継ぎやケガ、勝てない時期を経験しながら、投手としての年輪を重ねてきた。不器用ながらコツコツと努力を積み重ねていれば、いつかは実ると後輩たちに示してくれている。

 プロ初本塁打だってそう。打撃はもともと得意ではない。同じように得意ではなかった黒田博樹の打席で食らいつく姿勢に感化され「打ってこない」という先入観を捨てた。「9人目の打者」と自覚し、「打てなくても粘れるように」と取り組んできたことで、'18年はシーズン2桁安打。昨年は自己最多6四球。そして今年は、開幕戦で初本塁打となって表れた。

 無自覚にある先入観はときに成長の足かせとなる。先入観、固定観念を捨てることで新しい自分を知り、新しい世界が見える。不可能と思っていたことも可能になることだってある。2020年の開幕戦から、今年も新しい大瀬良大地を見せてくれる。そんな期待を抱かせてくれた。

BACK 1 2 3
#広島東洋カープ
#大瀬良大地
#森下暢仁
#黒田博樹

プロ野球の前後の記事

ページトップ