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プロ野球では、叫んだっていいのだ。
観客のいない東京ドームで「あっ!」。

posted2020/06/22 20:00

 
プロ野球では、叫んだっていいのだ。観客のいない東京ドームで「あっ!」。<Number Web> photograph by Yasutaka Nakamizo

観客がいなくても歓声がなくても、プロ野球はプロ野球だった。

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中溝康隆

中溝康隆Yasutaka Nakamizo

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Yasutaka Nakamizo

 総武線に乗り、水道橋駅で降りて東京ドームへ向かう。

 ついに我々のプロ野球が帰ってきて、これまで何百回と繰り返した、いつもと同じ日常も戻ってきた。妙にテンションが上がり、途中のコンビニで、スポーツ新聞やお茶と一緒になぜかカルビープロ野球チップスを買ってしまうあの感じもそのままだ。だが、球場周辺の雰囲気は例年とは違う。

 もちろん東京ドームの正面ゲートは、しっかりと2020年バージョンの「THE TOKYO CULTURE」をテーマにした選手と東京名所がコラボしたデザインで統一されている。グッズショップには早くも前日の開幕戦で達成された巨人6000勝記念グッズが並ぶ。

 だが、いつもはオレンジや黄色の野球ファンで溢れ返るこの場所が、試合開始直前にもかかわらず閑散としていた。もちろん正面ゲートにはシャッターが下りたままだ。

日常生活で叫んだら変質者だ。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で当初のスケジュールより約3カ月遅れて、6月19日に史上初めて無観客で開幕した2020年のプロ野球。東京ドームでは巨人対阪神の伝統の一戦が行われ、自分も久しぶりにテレビの前で開幕戦を迎えた。でも、寂しさよりも、喜びの方が強かった。

 巨人が1点を追う7回裏に、吉川尚輝の逆転2ランが飛び出した瞬間、本当に久しぶりに「よっしゃああー!」なんてテレビの前で両手を突き上げ叫んでしまった。これが、プロ野球なんだなと思った。

 だって、日常生活においてラーメン屋で食べた餃子が美味くて、唐突にガッツポーズかましたら完全に変質者だし、電車が時間通りにホームに来る度に「入ったーっ!」なんて絶叫していたら駅員さんにどこかに連れて行かれるだろう。でも、それがプロ野球では許される。たぶん我々は日常で足りない何かをプロ野球で補っているのだろう。

【次ページ】 声もバットの音も聞こえてくる。

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