炎の一筆入魂BACK NUMBER
大瀬良大地の1球目は「シュート」。
広島バッテリーの決断に驚かされた。
posted2020/06/22 19:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
先入観を持たないようにと思っていても、捨て去ることは難しい。モニター越しとはいえ、スコアブックに記した「カット(ボール)」の文字が恥ずかしい。
6月19日、横浜スタジアム。新型コロナウイルス感染拡大の影響で91日遅れた広島・大瀬良大地の開幕戦は、雨の影響でさらに30分遅れた。マウンドに上がったのは18時43分。本拠地開幕予定から敵地での開幕となり、当初準備していたよりも2179時間13分遅い登板となった。
その、1球目だ。
DeNAの1番、梶谷隆幸に対し、捕手・會澤翼は外角低めにミットを構えた。投じた2020年シーズンの初球は會澤のミットが内に寄り、真ん中低めへ。積極的に振りに行った梶谷は、平凡なライトフライに倒れた。
第1球目で投じた「シュート」
球速138キロ、大事なシーズン第1球目。得意球のカットボールで芯を外したのだとばかり思った。インターネットの一球速報には「ストレート」の表示も、そのまま「カット」とスコアブックにメモを残し、モニターに視線を戻した。
あの1球から116球で12球団最速の完投勝利を挙げたのだが、結論から言えば、1球目は「シュート」だった。昨年は投球の割合1%程度で、延期期間で完成度を高めた球種を開幕戦の初球に選んだのだ。
調整期間の「シュート多投」に、当初は疑いの目を向けていた。シーズン開幕前に、他球団に新たな球種があると植え付ける策ではと……。最終調整となった12日のソフトバンクとの練習試合でも10球程度投じたときには、シーズンに入っても使うのかとは感じたものの、優位な状況から使い始めていくものだとばかり思っていた。
それが先入観であり、固定観念だったのかもしれない。