炎の一筆入魂BACK NUMBER
大瀬良大地の1球目は「シュート」。
広島バッテリーの決断に驚かされた。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKyodo News
posted2020/06/22 19:00
開幕戦、12球団最速で完投勝利をあげた大瀬良大地。2020年の第1球目に選んだのは、新球の「シュート」だった。
「いずれ必要な球種になる」
登板前日から打者との対戦をノートに書いてイメージトレーニングする、用意周到な大瀬良だからこそ、開幕3日前に発表されたDeNA打線との対戦も何度も思い描いていたことだろう。特に積極的な1番打者、梶谷への初球の球種は何度もシミュレーションを重ねたに違いない。DeNA打線を勢いづかせるだけでなく、ネフタリ・ソトやタイラー・オースティン(開幕当日はスタメンから外れた)の前に走者を置きたくない。
裏をかきたいけれど、投げミスは許されない。そんな中、新球シュートを選択した大瀬良と會澤のバッテリーの決断には驚かされる。
結果、梶谷の芯を外し、2020年を順調に滑り出した。その後も左打者を中心に二ゴロを誘う結果球にも使ったシュートは、完投勝利の決して小さくはないポイントとなった。
「シュートはいずれ必要な球種になる」
数年前から言っていたことを今、実現させようとしている。
3カ月で上がったシュートの精度。
真っすぐに得意のカットボールを柱に、一昨年の躍進を支えたスライダー、縦のフォーク、奥行きを使うカーブで投球を組み立ててきた。右打者には逃げていく球種ばかり。調子によっては相手打者に踏み込まれている感覚もあった。
習得を目指しては立ち止まり、立ち止まってはまた試してを繰り返してきた。フォームを崩す一因となり、封印した時期もあった。不器用ゆえに時間はかかる。それでも根気強く、コツコツと積み重ねてきた。
開幕延期をプラスに変えようとする思考が習得を促進させたかのように、3カ月延びた調整期間でシュートの精度は格段に上がった。
カットボールと対となる球種の習得は、投球の幅をグッと広げる。宝刀カットボールの威力を増す効果もある。今後再び投球フォームやほかの球種に影響を及ぼすこともあるだろうが、完全習得のためには通らなければいけない道程。シュートという新たな武器を得た意味は大きい。