なでしこジャパンPRESSBACK NUMBER
丸山桂里奈が決めた伝説のゴールと、
数日後の「なんで私だけ……」。
text by
金子悟Satoru Kaneko
photograph bySatoru Kaneko
posted2020/07/09 07:00
日本サッカーの歴史を塗り替えるゴールを決めた丸山桂里奈。その功績が色褪せることは決してない。
「川澄とか、可愛い写真ばっかりなのに」
ドイツ戦の数日後、宿舎のロビーで囲み取材に応じた丸山は、日本の女子サッカーの新たな歴史を作った立役者だというのにどこか不満そうな表情を浮かべていた。不満の理由を聞くと、サッカー専門誌に見開きページで掲載されたドイツ戦決勝ゴールの喜びの表情に不満があるのだという。大会終了後、同誌のインタビューでも次のように話している。
「あの写真もすごい顔……。みんなにその表情を冷やかされて、いじられ続けたんですよ。川澄(奈穂美)とか、可愛い写真ばっかりなのに、なんで私だけひどい顔の写真しかないのよって(笑)。プレー写真としては迫力があるのは分かります。分かりますけど、もう少し何とかしてくださいよ(笑)!」(週刊サッカーマガジン編『なでしこの告白』より)
その写真を撮ったのが私だと聞かされ、丸山は冗談っぽく目を細めて私を睨んだ。
ここで丸山が言う「川澄の可愛い写真」とは、準決勝のスウェーデン戦で2ゴールを挙げて一躍シンデレラとなり、ネイルを見せるポーズの写真のことだろう。冗談っぽくではあるものの、丸山から睨まれたことが心に引っかかっていた。
タレントになっても、金メダリストだ。
この女子ワールドカップの優勝から2カ月後、なでしこジャパンはロンドン五輪の出場権をかけたアジア最終予選を中国・山東省で戦っていた。トレーニング取材の後、ネイルを見せる"可愛い"ポーズの写真を丸山にリクエストした。
これでドイツでの罪滅ぼしができた。そう思って胸を撫で下ろしたが、ネイルを見せる丸山のポーズは、川澄のポーズを忠実に再現できていない。このわずかに再現できていないところがなんとも丸山らしく、お気に入りの一枚になっている。
現在はタレントとして活動し、様々なメディアで私たちを楽しませてくれている丸山。「ぶっちゃけキャラ」「天然」と言われているようだが、私の目には、オリンピックの銀メダリスト、そして、ワールドカップの優勝経験者として映っている。
女子サッカー取材に関わった者の端くれとしての私の願いは、純粋に日本のために戦った女子サッカー選手に憧れ、サッカーを楽しむ女の子がひとりでも多く増えること。今も、そしてこれからも、そう願い続ける。