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丸山桂里奈が決めた伝説のゴールと、
数日後の「なんで私だけ……」。
text by
金子悟Satoru Kaneko
photograph bySatoru Kaneko
posted2020/07/09 07:00
日本サッカーの歴史を塗り替えるゴールを決めた丸山桂里奈。その功績が色褪せることは決してない。
すべてをポジティブに変える佐々木監督。
その前日、取材者の間でリアリストとして知られていた佐々木監督は、日本と同じ宿舎だったドイツの選手団にメルケル首相が激励に来ていたことを知ったという。
勝利が義務付けられプレッシャーがかかるドイツ。一方、失うものは何もなく純粋にサッカーに打ち込めるなでしこジャパン。実際に起きたことを受け入れ、すべてを次に向うためのポジティブな動機に変えていく佐々木監督に率いられたチームが、次のドイツ戦で躍動することを私は確信した。
澤に背を向けて走り出した。
7月9日ドイツ戦。グループリーグでは、出場時間がわずかでゴールを決められず苦しんでいた丸山が、後半開始からピッチに入った。これまでの試合と異なる佐々木監督の選手交代には何かしらの狙いがあると感じ、丸山のプレーを注視することにした。
そして、スコアレスで迎えた延長後半3分、佐々木監督の狙いに丸山が応える。
岩渕から澤へダイレクトパスが繋がった瞬間、丸山は澤に背を向けたままドイツディフェンダーのギャップを見逃さずダイアゴナルランで抜け出し、ドイツ陣内に深く侵入していく。澤のふわりと浮かせたパスに追いついた丸山が右足で放ったボールは、ドイツゴールへ吸い込まれた。ホームのドイツサポーターを沈黙させたこのゴールに至る一連の動きは、後に「オフサイドのルールをあまり理解していなかった」と語った人物とは思えない見事な動きだった。
丸山が挙げたこの1点を最後まで守り抜き、なでしこジャパンはホスト国ドイツを破る大金星をあげた。試合直後のフラッシュインタビューで、丸山は次のように話した。
「岩渕がスゴイいいボールを出してくれたんで、あとは決めるだけだったんで、入って良かったです」
丸山は、アシストが岩渕と思っているようだった。だが、本当のアシストは澤。日本時間の早朝に眠い目をこすりながら歴史的な勝利に歓喜した視聴者の中には「あれ、アシストは岩渕? 澤じゃないの?」とザワついたファンもたくさんいたことだろう。
ただ澤がラストパスを蹴った瞬間、丸山はすでに前方へ走り出していたので、おそらく澤のことは視界に入っていなかった。「天然発言」ではないのである。