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長谷部誠の心を読み解く8つの秘話。
旧知の4人が教える天然エピソード。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byAFLO
posted2020/06/15 20:00
長谷部誠はエピソードを集めれば集めるほど、ちょっと変わった、でも愛さずにはいられない人なのだ。
日本から人が来ても、日課は変えない。
<証言5 毎日、必ず昼寝をする(馬場憂太)>
しばらくいっしょに暮らすと、馬場はあることに気がついた。
「マコちゃんは1日のスケジュールを細かく決めていて、そこに僕がいるだけなんだ」
たとえば午後になると、長谷部は決まって昼寝をする。カーテンを閉めて、耳栓をして、アラームをセットして。
「耳栓は、携帯とかの音が聞こえないようにするためだそう。でも、アラームは聞こえると言うんですよね(笑)」
日本から高校時代の友達が遊びに来ても、そのスケジュールは絶対に変えない。みんなで話していても、突然、「オレはもう昼寝の時間だから、あとは適当にやっていて」と寝室に入っていく。究極のマイペースだ。
これは夕食についても同じで、自分のお腹が空いたら「食事に行こう」と言う。まわりが「まだお腹は空いてないよ」と言っても関係ない。
馬場にとって、まさにプロの鑑だった。
「まさかこんなに徹底して生活しているとは思ってもみませんでした。今ちゃん(今野)から『マコはどんな感じ?』と訊かれたので説明すると、『そこまでやるのか』と絶句していました」
<証言6 親友のためなら代理人にもなる(馬場憂太)>
ただし、ストイックに生活するだけの選手なら、他にもたくさんいるだろう。長谷部が本当にすごいのは、自分のリズムにこだわりながら、同時に人のために自分の時間を犠牲にできるということだ。
所属チームがない馬場を助けるために、長谷部は代理人のトーマス・クロートと頻繁に連絡を取り、実質上の“代理人”になった。当時、自分自身もヴォルフスブルクでレギュラー争いの真っ只中だったのに。
クロートの紹介でドイツ3部のヴィスバーデンに練習参加が決まると、長谷部は毎日のように電話をかけた。
馬場は振り返る。
「マコちゃんがクロートさんに電話して、いろいろ聞いてくれるんです。『監督がプレーはすばらしいからもっと貪欲になれと言っている』とか。まるでマコちゃんが代理人をやってくれているような感じでした」
結局、予算の関係で契約はまとまらず、馬場はこれ以上迷惑をかけられないと思い「そろそろ帰国するよ」と切り出した。すると、長谷部は語気を荒らげた。
「いや、ここにいろよ。本当に困ったときは助け合いだから」
結局、馬場は約3カ月、長谷部の家にお世話になった。
「本当に感謝してもしきれない。僕は今年1月に日本に帰国したんですが、今でも電話をくれて、『どうなった?』と気にしてくれる。日本代表のチェコ戦(キリン杯)の前日にも電話をくれました。今はマコちゃんに復活したところを見せたいという思いでやっています」
馬場はアジアを含めてプレーできる場所を探していくつもりだ。親友の気持ちに応えるために。