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長谷部誠の心を読み解く8つの秘話。
旧知の4人が教える天然エピソード。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byAFLO
posted2020/06/15 20:00
長谷部誠はエピソードを集めれば集めるほど、ちょっと変わった、でも愛さずにはいられない人なのだ。
田中達也「冷たいヤツなんですよ(笑)」
<証言7 本音をなかなか見せない(田中達也)>
かつて長谷部誠は「ライバルは誰か?」と訊かれると、必ずと言っていいほど、田中達也と答えていた。
この2人はまるで兄弟のように仲がいいが、学年は田中の方が1つ上だ。長谷部は浦和に入団すると、田中のプロフェッショナルな姿勢に感銘を受けて、ライバルとして認めあう特別な関係になった。長谷部が田中の子供を幼稚園に送り迎えするなど、家族ぐるみでつき合っている。
ただ、そういう仲にもかかわらず、「長谷部はなかなか本音を見せない」と田中は冗談まじりに言う。
「あいつは弱いところをあまり人に見せない。よく本人に言うんですが、冷たいヤツなんですよ(笑)。ただ、そうやってみんなから一歩引いて見ているところが、代表のキャプテンをやるときに生きているんだと思います」
<証言8 悔しさが優しさにつながっている(松田義人)>
6月12日、長谷部は地元の静岡県藤枝市でチャリティーイベントを開催した。
サッカー教室や握手会を行なうとともに、会場では自著『心を整える。』の藤色カラーバージョンやメッセージ入りTシャツを販売した。
この運営を手伝ったのが、藤枝東高校時代の同級生たちだ。サッカー部のチームメイトだった松田義人は、清水エスパルスの広報をしている経験を生かして、イベントの報道受付を担当した。
松田は同級生が日本代表のキャプテンになったことに驚きつつも、その理由が少しわかるような気がしている。
「高校時代、僕たちのひとつ下の学年には成岡翔らスーパーな選手がそろっていて、常に注目されるのは彼らでした。年下の選手が試合に出ているのに自分は出られず、相当悔しかったと思います。でも、早い段階でそういう挫折を経験したことが、今の彼のやさしさにつながっているんじゃないでしょうか」
チャリティーイベントは約8000人が訪れるという大規模なものだったにもかかわらず、アットホームな雰囲気に包まれていたのは、長谷部と同級生たちが心をひとつにして作り上げたからだろう。
長谷部はただの真面目なキャプテンではない。ちょっと天然で、たまに勝負にこだわりすぎることもあるけれど、愛すべき不思議な魅力を持つ27歳だ。
(Number781号『「誠」の心を読み解く8つの秘話。』より)