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イチローが明かした田中将大との13球。
「駆け引きが必ずあるから、面白い」 

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笹田幸嗣

笹田幸嗣Koji Sasada

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posted2020/06/01 08:00

イチローが明かした田中将大との13球。「駆け引きが必ずあるから、面白い」<Number Web> photograph by AFLO

2015年6月15日、マーリンズのイチローとヤンキースの田中将大が初対決。イチローは4打数2安打でマーリンズが2-1で勝利した。

「そりゃ、十分エースになるピッチャー」

 田中からしてみればもう1点も与えられない。彼はカウントボールから宝刀スプリットを出し惜しみすることなく駆使した。そして、イチローはそれを待っていた。

 1ボールから89マイルのスプリット。背番号51が狙い通りに芯で捉えたものの、打球はマウンドの傾斜部分に当たり勢いを失った。加えて遊撃手が二塁ベース寄りに守っていたこともあり凡退。常に相手投手のウイニングショットを仕留めることで対戦の優位性を保とうする彼の思惑は崩れた。

 2安打でチームが勝利したにも関わらず、イチローの表情が晴れなかった原因はここにあったが、彼は気を取り直し、この日の4打席13球の対峙を振り返った。

「先発ピッチャーとして100球をどう組み立てるか、それがちゃんと出来るピッチャー。相手としてやって、この1試合だけでもそれがはっきり見える。力を入れるところと抜くところをよくわかっている。結局、2点しか取られてないもんね。そりゃ、十分エースになるピッチャーですよ。必ずゲームを作る。一番大事なことじゃないですか」

手がでなかった内角への95マイル。

 前年、ふたりはヤンキースでチームメイトだった。田中は右肘の故障で約2カ月半戦列を離れたものの、新人ながら20試合の先発で13勝を挙げた。当時、イチローはこんな言葉で田中の投球を表していた。

「なにかうまくいかないことを前提として組み立てている。通常の状態を保てないとゲームを壊してしまうんだけれど、しんどそうに見えても形にする」

 調子が良くない時に何ができるか。どんな状態でも決して試合を壊さない。これがエースと呼ばれる投手の絶対条件だ。

 球威だけに頼ることなく、試合状況と打者の考えを読み取りながら、類まれな制球力と組み立てで試合をつくる田中の投手力を当時からイチローは褒めていた。そんな田中らしさが表れたのが、1-1で迎えた5回の第3打席だった。

 カウント1-2から田中が選択したボールは内角への直球。この日最速の95マイル(約153キロ)が見事に決まり、イチローは見逃し三振。田中は控え目に言った。

「イチローさんはスプリットを意識していたんじゃないですかね。だから手が出なかったんじゃないでしょうか」

 この場面、スプリットを待ちながら直球に対応するのはイチローの基本的対処法だ。だから頭にはあった。だが、そこへ踏み込ませまいと内角への直球、しかも95マイルをずばりと配することが出来るのが田中将大の投球術だ。

【次ページ】 イチロー「頭を使うから面白い」

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