イチ流に触れてBACK NUMBER
イチローが明かした田中将大との13球。
「駆け引きが必ずあるから、面白い」
posted2020/06/01 08:00
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
AFLO
おそらく機構側とオーナー陣が目指す7月4日の独立記念日前後での今季開幕案は実現しないだろう。安全と金銭の両面で選手会側との隔たりは大き過ぎる。
今季の開幕さえも危ぶまれる状況と言えるが、ニューヨークのメディアは早くもオフのストーブ情報にも熱心だ。その主役を務めているのが今季でヤンキースとの7年契約が切れる田中将大だ。
日本人初の6年連続二桁勝利を打者有利のヤンキースタジアムを本拠地として成し遂げ、通算成績は75勝43敗、防御率3.75。.636の勝率に加えて大舞台での強さにも定評があり、ポストシーズンでの防御率は1.76。ここ一番で頼りになる男としての評価を築き上げ、口うるさいヤンキースのビートライター達からの信頼も厚い。
そして、その彼らは今、口を揃えてこう語る。
「マサはヤンキースに必要な投手。3年ほどの延長契約を結ぶべきだ」
田中がいかにプロフェッショナルな投手であるか。数字だけでもはっきりとわかるが、対峙するプロとして、イチローさんが口にしたことがあった。それは2015年6月15日のことだった。
イチローと田中、たった一度の対戦。
南国マイアミで行われたマーリンズ対ヤンキースの交流戦。この日ふたりはキャリアでたった一度の対戦を果たした。結果は4打数2安打、試合は2-1でマーリンズが勝利。数字だけを見ればイチローに軍配は上がったかに見えるが、試合後の彼の悔しそうな表情をはっきりと覚えている。
「特別なボールは、ここっていうときのスプリット。あの場面であの球を仕留めておけば向こうは困りますからね」
あの場面……。それはマーリンズが1点を勝ち越し尚も2死二塁で迎えた7回の追加点機だった。