サムライブルーの原材料BACK NUMBER
サンガ→本田圭佑のホルン→関東1部。
J復帰目指す“介護フットボーラー”。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byVONDS ICHIHARA
posted2020/06/02 11:30
関東サッカーリーグ1部VONDS市原に所属し、介護の仕事もこなす沼大希。Jリーガー復帰を目指し、プレーする。
「目が死んでいるよ。大丈夫なの?」
チームに加入した沼は、それでも介護の仕事とサッカーの両立を図っていかなければならない。練習は大体、朝9時半から始まり、紅白戦の日以外は11時には終わる。全員が何らかの仕事をしているため、その時間には終わっておかなければならないためだ。沼を含め、介護の仕事をしている選手は13人いる。
沼は練習施設に隣接している「グリーンホーム」で昼食を取って、午後1時から7時まで介護の仕事をこなす。仕事の時間が近づいてくると憂鬱で仕方がなかった。
ある日、一緒に働いているスタッフにこう言われたという。
「目が死んでいるよ。大丈夫なの?」
精神的に限界が近づいていた。これ以上続けるのは無理だと感じ、違う仕事に変えてもらおうと心に決めた。業務が終わってちょうどチームに相談しようとしたとき、偶然にも介護業務の主任から呼び止められた。
ちょっと話をしませんか、と。
「そんなに背負い込む必要はないですよ」
「自分を追い込みすぎているように感じる。そんなに背負い込む必要はないですよ」
ずっとサッカー1本でやってきたため、日々働くことは実質初めて。慣れないなりに精一杯やろうとはしていた。確かに、どこか自分を追い込んでいるところがあったのかもしれない。
「あなたは介護をするために市原に来たわけではないですから」
気持ちがスーッと楽になっていくのを感じた。自分のペースでやっていけばいいんだと思うことができた。そうだ、自分はサッカーをするために、ここにいるんだ、と。
介護で頭がいっぱいになっていた思考をチェンジした。
「仕事がきつい分、あらためてサッカーって楽しいんやなって思えました。その前に、半年間プレーできていなかったというのもありますけど。ただ、主任に言葉をもらって仕事に対する意欲もわいてきました。きょうも頑張ってみようかって」