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中量級なのに全日本柔道の“名物”。
加藤博剛、小よく大を制す極意。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byAFLO SPORT

posted2020/04/29 19:00

中量級なのに全日本柔道の“名物”。加藤博剛、小よく大を制す極意。<Number Web> photograph by AFLO SPORT

2012年全日本柔道選手権決勝、加藤は身長で19cm、体重で45kg、自分より上回る石井竜太に隅落で一本勝ちを収め、優勝した。

40年ぶりに重量級以外の覇者が誕生。

 加藤は本来、90kg超級、つまり中量級の選手。それが2つ階級が上の100kg超級の実力者である棟田や百瀬を倒して勝ち上がったのである。

 1戦ごとに歓声は大きくなっていった。

 迎えた決勝は、準決勝で鈴木を破った石井竜太。鈴木が試合中に負傷したこともあったが、石井もまた、世界ジュニア選手権や国際大会に出場する有望な選手の1人だった。

 しかも193cm、135kgの恵まれた体格を誇る。120kgの百瀬に続き、加藤からすればはるかに大きな相手だった。

 だがひるまない。体格差をいかし圧力をかける石井に対し、果敢に技を仕掛ける。

 勝負が決まったのは1分29秒。石井が仕掛けた技を透かすと胸を合わせ、倒す。隅落で一本。実に40年ぶりの、重量級以外の覇者が誕生した瞬間だった。

国際大会では大きな成果はあげられないが……。

「夢じゃないかと思うくらいに興奮しています。周囲が強い選手ばかりだったので、勝たなくてはならないという気持ちで必死でした」

 加藤も高揚を隠せなかったが、場内の興奮こそ大きかった。階級にかかわらず一堂に会して競う大会ならではの出来事は、あらためて全日本選手権の持つ魅力を伝えるものであった。

 優勝した加藤は、しかし、国際大会ではその後も大きな成果をあげられずに過ごした。オリンピックや世界選手権代表にも縁がなかった。

 ただ、全日本選手権となると、無類の存在感を示してきた。とりわけ近年は常に上位の成績を残している。2017、2018年は3位。

 昨年は、将来を嘱望される191cm、165kgの斉藤立(斉藤仁の息子)や、先だっての国際大会でリネールを破った影浦心らを破り、準優勝。

【次ページ】 自分より大柄な選手に対峙する独自のスタイル。

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