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川井梨紗子が見せた敬意と執念。
吉田沙保里、伊調馨の壁を超えて。
posted2019/07/10 17:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Miki Sano
運命の横風にあおられて蛇行を強いられながらも懸命に進んできた1人の女子レスラーが、今度は自らの力でまっすぐな道を切り開いた。五輪の決勝戦以上と言えるハイレベルでスリリングな戦いを制した先に、その道があった。
来年の東京五輪出場権獲得につながるレスリング世界選手権(9月、カザフスタン)の代表選考プレーオフが7月6日に埼玉・和光市総合体育館で行なわれた。
女子57kg級は2016年リオデジャネイロ五輪63kg級金メダルの川井梨紗子(24歳、ジャパンビバレッジ)と五輪4連覇の伊調馨(35歳、ALSOK)の激突。執念でまさったのが川井だった。
何度も涙にむせびそうに。
ギリギリの戦いに競り勝つと、取材エリアでは何度も涙にむせびそうになった。
昨年10月に伊調が2年ぶりに復帰してからの対戦成績は、今回のプレーオフ前まで川井が2勝1敗とリードしていたが、心理的には決して優位とは言えなかったのだ。
振り返れば、0-6で敗れた'14年12月の全日本選手権以来、4年ぶりの対戦だった昨年12月の全日本選手権。1次リーグでは川井が勝利し、伊調が'01年から17年間続けてきた国内連勝を70でストップさせたものの、決勝戦では残り10秒から逆転負けを喫し、心が折れかかった。
「ここ1年くらい、自分の周りで想像していなかったことばかりが起きて、自分を取り巻く環境がすごく変わって……」