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“大黒様”に決められた劇的ゴール。
若き日の鄭大世が埼スタで見た悪夢。 

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キム・ミョンウ

キム・ミョンウKim Myung Wook

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posted2020/04/20 12:00

“大黒様”に決められた劇的ゴール。若き日の鄭大世が埼スタで見た悪夢。<Number Web> photograph by AFLO

2005年2月9日ドイツW杯アジア最終予選、日本vs.北朝鮮。大黒の劇的なゴールを鄭大世はスタンドで観ていた。

映画のワンシーンのような幕切れ。

 このまま引き分ければ、北朝鮮にとっては大金星と言えただろう。一方で日本が格下の北朝鮮にホームで引き分けや負けは許されなかったに違いない。

 緊迫する中で迎えた後半アディショナルタイム。このまま終わってくれと心の中で祈りつつ戦況を見守ったが、最後の最後で悪夢が待っていた。

 右サイドから小笠原が上げたクロスをGKがパンチングではじく。こぼれ球をMF福西崇史が前にはたくと、そこにいたのが大黒。振り向きざまに左足で合わせると、あたりそこねたものの、ボールはゴールに吸い込まれた。

 大黒の劇的なゴールによる、映画のワンシーンのような幕切れ――。ピッチに倒れこむ北朝鮮選手の姿を茫然と記者席から眺めつつ、一方で日本サポーターの歓喜と熱狂ぶりを目に焼き付けたものだった。

 翌日の“大黒様”のスポーツ紙の見出しが目に飛び込んでくる。日本のピンチを救った大黒を七福神の“大黒(だいこく)様”にかけていることに、「うまいこと言うな」と思いつつも、気分が晴れることはない。

安英学は悔しさを、李漢宰は号泣。

 実はこの試合のあと、ある在日同胞が営む焼肉店に代表チームが招待された。筆者も取材で同行していた。

 現場は予想通り、重い空気が漂っていた。北朝鮮の選手や監督たちは、スタジアムに集まった応援団に「ただただ申し訳ない」と、明るく振舞える精神状態ではなかった。

 ただ、日本代表を相手に健闘した戦いを筆者は誇りに思っていた。それにサッカーのおもしろさを存分に感じられた試合でもあったからだ。

 Jリーグでプレーしていた安英学は、悔しさを言葉にしつつも、日本で自分が奮闘する姿を見せられたことを誇りに感じていただろうし、残りの試合に全力を尽くすと力強く語っていた。一方で後輩の李漢宰は、食事に手をつけられないほど大号泣し、唇を噛みしめ、悔しさをにじませていたこともよく記憶している。

 北朝鮮はこの敗戦のあと、イラン、バーレーンにも苦戦を強いられ、1勝5敗でW杯出場の夢を果たすことができなかった。結果的にはまだ実力はなかったということだろう。

【次ページ】 スタンドにいた大学生の鄭大世。

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