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ラグビー界の英雄オドリスコル。
長嶋茂雄のような華と残した言葉。
text by
竹鼻智Satoshi Takehana
photograph byAP/AFLO
posted2020/04/10 11:40
アイルランドラグビー界の英雄ブライアン・オドリスコル。178cmと小柄ながらも神がかり的なプレーを連発し、多くのファンの心を掴んできた。
突出した才はなくとも、華がある。
178cm、93kgの体格は、当時の代表レベルのCTBとしては“中肉中背”、とも言えるサイズ。走るスピードも、遅いわけではないが、爆発的に速いというレベルでもない。身体能力で言えば、世界のトップレベルのラグビー界では、特に突出したものを持っている選手ではなかった。
しかし、ディフェンスのギャップを見つけて角度、タイミング良く走り込む技術、味方を抜かせる絶妙のオフロードパスなど、華のあるプレーは見る者を大いに沸かせた。泥臭い肉弾戦でのディフェンスの技術にも長け、試合の鍵となる場面で、相手の動きを読んでのインターセプトも数多く見せた。
2009年の欧州クラブ選手権準決勝では、代表チームではチームメイトであるマンスターのローナン・オガラのパスを見事に読み、レンスターの勝利を決定づけるインターセプトトライを決めた。この大会、5トライでトライ王となったオドリスコル擁するレンスターは、堂々と欧州クラブ王座の座に輝いている。
まるで“ミスター”のように大事な場面で。
キャリアを通して記憶に残るプレーを数多く残してきたが、円熟期となる30歳を迎えた2009年は、特に光るプレーが目立った。秋のテストシリーズのオーストラリア戦では、劣勢が続いた試合のラストワンプレーで2点差に迫るトライを決め、その後のゴールキックが決まり劇的な引き分けの原動力となった。相手ディフェンスを切り裂く鋭い走りに、アイルランドでの実況中継者は絶叫した。
大事な試合の大事な場面で、見る者を興奮させるプレーの達人。「アイルランドの長嶋茂雄」とも言える国民的英雄は、正にラグビー界の千両役者だ。