“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
1年生で正GKを奪った松原颯汰の今。
川口能活から「サイズが一緒だね」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/03/27 07:00
札幌・菅野ら小柄なGKのプレー映像集を見て研究しているというGK松原。「共通するのはスピード」と向上心たっぷりに語った。
狂った歯車、選手権出場も逃す。
そこから彼の中の歯車が一気に狂い出した。前に出るべきところで出られなかったり、出なくていいところで焦って出てしまう。周りに支えられながら堂々とプレーしていた昨年が嘘のように、まさに「自分が自分じゃないような感覚」だった。
「周りから『松原は2年になってダメになった』と言われているんじゃないかという気持ちが芽生え始めました」
インターハイ予選後のプレミアEAST第7節浦和レッズユース戦。松原は佐藤の控えに回った。そこからはスタメンとベンチを繰り返した。第11節の尚志高戦からレギュラーを取り返したもの、無失点で終えた試合は1つもなかった。
選手権予選でも決勝で対戦した市立船橋に先制を許す苦しい展開となり、2-3の敗戦。全国の切符を逃してしまった。
「市船に負けた時はもう『俺は次どうしたらいいんやろ』と何も考えることができませんでした。そこからプレミア(リーグ)でも失点が続き、最後までチームを残留争いに巻き込んでしまった。インターハイもプレミアも選手権も優勝を目指していたのにこうなったのは失点が多かったから。1年間、何も成長していない自分に絶望しました」
榎本監督「勉強してきなさい」
年が明けると松原のもとに1本の連絡が入った。日本高校選抜候補メンバー選出、一次選考合宿参加の要請だった。
「選手権にも出ていませんし、僕がふさわしいとは思いません」
松原は最初、断りを入れた。だが、松原の苦しみを見守ってきた榎本雅大監督は彼にこう諭した。
「お前は上を見過ぎて焦っている。ダメでもいいから、もう一度自分の現状を見つめ直して、周りのいいところをもっと見て勉強してきなさい」
今の自分で通用する自信がなかった。この状況で行っても「絶対に残らないといけない」という気持ちが働いて、また自分のプレーが硬くなる悪循環に陥る危険性を感じていた。だからこそ、榎本監督のこのひと言で、松原は救われた。
「(メンバーから)落ちても良いから、自分の現在地を知るために行こう。逆に選手権で自信をつけている選手たちから良いところを盗もうと素直に思えたんです」