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実は凄いアタランタCL8強の快挙。
お祝いは“あの敵”を倒したあとで。
posted2020/03/18 07:00
text by
神尾光臣Mitsuomi Kamio
photograph by
Getty Images
3月10日、新型コロナウイルスの拡散を防ぐため、無観客のメスタージャで行なわれたバレンシアvs.アタランタ。アタランタの攻撃を牽引していたイリチッチはベンチに手を挙げ、交代を要求した。肩で息をしているのは誰の目にも明らかだった。
その権利はあった。すでにハットトリックを達成。そのうち2つはPKによるものだが、ファウルは彼の突破が誘ったものだった。
しかし78分にプレーが切れたとき、ベンチが呼び戻したのはゴメスだった。ガスペリーニ監督は試合後、地元メディアにこんな裏話を明かしている。
「彼は3-3になったとき交代を要求していた。でもピッチに残し、先にパプー(ゴメス)を呼ぶことにした。4点目を取らせるためだ。彼に言ったんだ。『1分くれ。そうしたら交代させるから』と。何か1つアクションを起こすと疲労が溜まってくるのは分かっている。でも2分もたてばもっと強くなる。だから言ったんだよ『4ゴール目が取れるぞ』と」
4ゴールのイリチッチは結局……。
他ならぬイリチッチが鮮やかなカウンターからシュートを突き刺したのは、その4分後のこと。味方が左をスピーディーに崩すのに呼応し、開いたゴール前にスルスルっと顔を出すと、フリーで左足を合わせる。ゴールを決めた彼はその後もピッチに残り、結局フルタイムを戦い抜いた。
かくしてイリチッチはCL決勝トーナメント、敵地での1試合で4得点を決めた初の選手となったわけだが、それはまさに指揮官の目論見によって成されたことだった。
32歳でCL初出場となったイリチッチを筆頭に、アタランタのほとんどの選手が、このコンペティションに初めて臨んでいる。
そんな集団は大舞台で萎縮するどころか、緻密に練り上げられたチーム戦術のなかで大胆に個人技を仕掛け、ゴールを積み上げている。