マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
セの新人王は「この男」と予想する。
巨人で戸郷翔征が2ケタ勝つ可能性。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2020/03/10 11:40
フォームは個性的だが、戸郷翔征のボールは本物だ。こういうタイプが活躍すると、プロ野球は楽しい。
上位指名確実と思ったらまさかの6位。
右腕が吹っ飛んでいきそうなほどの猛烈な腕の振りから、140キロ台後半の速球と滑りの大きなスライダーで、狙って三振を奪いにいっていた。
エイヤー! の気合いも勇ましく、三振に打ち取れば、どうだ! とばかりに闘争心を全身にみなぎらせ、打ち取られた打者は、藤原も根尾も中川卓也(大阪桐蔭)も、ただ屈伏するように首をかしげ、苦笑いを浮かべてダグアウトに戻っていくばかりだった。
当然、ドラフト上位と踏んでいた。
本番直前に刊行した『野球人』(現在休刊中)の中でドラフト全指名を1人で予想した時にも、「巨人の3位」で指名されると踏んでいた。
なのに本番では、ドラフト6位の下位指名だったから、さらに驚いた。
「でも、あのフォームでしょ……」
「戸郷のような投手が、いちばん困っちゃうんです」
あとで理由を訊いたある球団のスカウトは、そう言って笑った。
「スカウトにとっては魅力たっぷり、逆にあずかった現場の指導者にとっては育て方がすごく難しい。典型的なそういうピッチャーなんです。持ってるボールは“プロ”ですよ、まっすぐも変化球も。でも、あのフォームでしょ……」
強引なまでに腕を後方に引っ張るテークバック。腕の振りの軌道が、頭からかなり離れるアーム気味のスイング。
「あのフォームで、プロのストライクゾーンについてこられるのか。フォームに手を加えたら、あの球質が消えてしまうんじゃないか。あずかった方はたいへんだ。どうしても、敬遠されがちになる」
獲っても、どこかで故障する可能性も低くない……。
6位という意外な結論になったのは、「0か10か」のリスクをはらんだ微妙な逸材という見方だったからだ。