松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
高田千明「走り幅跳びに挑戦したい!」
突然の転向に大森コーチは何を思った?
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byNanae Suzuki
posted2020/03/09 07:30
高田千明さんと大森盛一コーチのトレーニング風景。1本の紐で信頼は繋がっている。
「『直前に何を言い出すんだ』って怒られた」
松岡「相談したら、大森さんはなんと答えたんですか」
高田「ロンドンの最終選考の直前だったんですけど、『私も走り幅跳びをやってみたいんだよね』って言ったら、『お前は短距離でパラを目指しているんだろ。こんな直前に何を言い出すんだ』って怒られました」
松岡「そりゃそうですよ。僕だってそう言います」
高田「それでロンドンまでは走ることを一生懸命やろうと。でも、標準記録を破ったのに行けなかった。幅跳びの彼女は行けた。ここはもう、大森さんを拝み倒してでも幅跳びをやらせてもらおうと。何度も断られましたけどね(笑)」
大森「だって僕は短距離選手でしたから、そもそも幅跳びを教える技術がない」
松岡「そうか。シンプルに教えられないと(笑)。いったいこの話はどう着地するんですか」
高田「何度も説得して、ついに大森さんも『幅跳びで出たいなら考えなくもない』と言ってくれて。ただし、幅跳びは絶対に怖いと思うから、決めた以上は『練習中に怖いと言うな』と。それだけは約束してくれと言われました」
「絶対に怖いから無理だと言ったんですけど……」
松岡「よく転向を認めましたね」
大森「正直、短距離で2回ダメで、その間にも世界トップとの差が徐々に広がり始めていたのに気づいていたんです。僕も内心、本当に出たいならもうこの種目では無理かなと思っていたんですね。でも、ロンドンで辞めると思ったら辞めないし、今度は幅跳びをやりたいでしょ。絶対に怖いから無理だと言ったんですけど……」
松岡「その怖いというのはどういうことですか」
大森「短距離は僕が伴走者としてすぐ隣を走っていて、レース中は一本の紐をお互いに握り合っているから、安心して走ることができるんです。でも、幅跳びは助走も1人だし、空中に飛びだして、真っ暗な中で着地をするんです。全盲クラスの選手はアイパッチを目の上に張った上で、さらにアイマスクを装着する。踏み切りエリア(通常の幅跳びのように20cm幅の板ではなく、全盲クラスは1m幅の踏み切りエリア内で跳ぶ)がどこにあるかもわからないし、暗闇めがけて跳ぶのって絶対に怖いじゃないですか」
松岡「たしかに、想像すると怖いなんてもんじゃないですね。でも、千明さんが怖いと言ったらもう指導を辞めると」