猛牛のささやきBACK NUMBER
崖っぷちにいたオリックス神戸文也。
震えたプロ初登板、母への感謝。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2020/01/24 11:30
8月10日、プロ初登板となった楽天戦。「足が震えていた」と振り返った。
「ストライクが入らない」を痛感。
「自分の中で、大丈夫だろうなと思っていたし、マウンドに行くまでは大丈夫だったんですけど、マウンドに立った時、こう、足が震えているのが自分でわかったんです」
「ヤバイ」と焦る中でも、高山郁夫コーチや平井正史コーチに言われていた言葉を思い出した。「初登板の時は誰もが、足も震えるだろうし、最初からうまく行くなんて思っていないから、とにかく、腕が振れないとか、置きにいく投球だけはするなよ。それをしてしまうと、反省点が『腕が振れなかった』しか出てこないから。真ん中をめがけて投げていい。打たれたら打たれたでしょうがないから」
だから、「とにかく腕を振ろう。ダメならダメでしょうがない。真ん中めがけて投げよう」と腕を振った。ところがストライクが入らない。力が入って引っ掛けたり、高く抜けたり。
それまで、初登板でストライクが入らない投手の姿を見て、「なんでストライク入らないんだろう? 真ん中めがけて投げれば大丈夫じゃないの?」と思っていたが、「ああ、こういうことか」と妙に納得した。
洗礼を受けるも、一軍で踏ん張った。
四苦八苦の末にようやく、初めてストライクゾーンに投げ込まれたボールは、無情にもゼラス・ウィーラーによってレフトスタンドに運ばれた。
「初登板、初ストライク、初ホームラン、初失点です(苦笑)。一番驚いたのは、詰まったと思った打球が伸びて、スタンドに入ったこと。一軍と二軍の飛距離の違いにビビりました」
四球のあと2アウトを取ったが、島内宏明に2塁打を打たれて2点目を失ったところで交代となった。
プロの洗礼。それでも、降板後は冷静に自分を分析することができた。
「力んでストライクが入らなかったから、なおさら投げ急いでしまっていた。だから次の日は、ブルペンから、セットした時の足の幅を少し狭めて、ゆっくり足を上げて投げるようにしたら、『これだ』という感覚になった。それがなかったらたぶん2日続けて同じことになって、サヨナラーってことになっていたと思うんですけど」
失敗もしながら、その都度修正して対応し、シーズンの最終戦まで一軍で踏ん張った。最後まで、マウンドでの足の震えは止まなかったが、「1回味わってからは、体もそれに慣れたんだと思います。これが普通だよ、と想定内です」