猛牛のささやきBACK NUMBER
崖っぷちにいたオリックス神戸文也。
震えたプロ初登板、母への感謝。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byKyodo News
posted2020/01/24 11:30
8月10日、プロ初登板となった楽天戦。「足が震えていた」と振り返った。
フォークで勝負できるようになった。
昨年5月、神戸と同年の育成1位で入団した張奕が支配下登録された。その時点で神戸はまだシーズン開幕から一度もウエスタン・リーグで登板しておらず、絶望的な思いになった。
「同じ年に2人、育成から支配下になるって、どの球団でもあまり聞かないですし、その時は(右肘手術をしたため育成契約となっていた)本田(仁海)が治って支配下に戻るというような話も聞いていたので、枠のことを考えると、もう自分はダメかなって、ちょっと諦めかけていました」
それでも、中垣征一郎パフォーマンスコーチ兼コーチングディレクターに、「相手をねじ伏せられるように、もう少し力をつけたほうがいい」と言われて春から取り組んでいたウエイトトレーニングの成果が、夏場になるにつれ発揮され始めた。
「どんどん強いボールで攻められるようになりました。以前は力がなかったので、ファールじゃなくて弾き返されてしまっていたんですけど、強いボールだとファールを取れてカウントを稼げるので、追い込んでから得意なフォークで勝負できるようになった。以前は、力一杯投げたボールの球速がだいたい140キロ台後半だったんですが、リラックスしてパンと投げても同じような球速が出るようになりました」
「でも、ここがスタートだからね」
そして7月、名古屋遠征中のホテルで、球団スタッフに呼び出された。「オレ、なんかやらかしたかな?」と恐る恐る部屋を訪ねると、「おめでとう」と支配下登録を告げられた。
自分の部屋に戻り母の知子さんに電話で知らせると、「やったー! よかったー!」と喜んでくれた。母の涙声を聞くと、神戸にも様々な思いがこみ上げてきて涙があふれた。
「僕は母に野球を教えてもらいましたし、ずっと野球をやらせてくれたので……」
「でも、ここがスタートだからね」という母の言葉にうなずいた。
8月2日に一軍に昇格した神戸は、8月10日の東北楽天戦でプロ初登板を果たす。8-2とリードして迎えた9回裏のマウンドに上がった。