野球のぼせもんBACK NUMBER
上野由岐子から菅野智之への言葉。
「大事な悩みだけど大した事ないよ」
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKyodo News
posted2020/01/23 11:50
自主トレでノックを受けるソフトボールの上野由岐子と、巨人・菅野智之。どちらにとっても勝負の年だ。
菅野、千賀、上野が何気なく話し始めた。
福岡に出発する前、菅野は報道陣に対してこんな話をしていた。
「上野さんと会うのは初めてです。あれだけ大舞台で活躍している選手なので、競技は違えども、心構えとか、確実にプラスになることがたくさんあると思います。新人の頃のようにたくさん質問して、『こいつ、うっとうしいな』と思われるぐらい色んなことを聞きたい」
日没とともに練習が終了。すっかり暗くなったグラウンドで、それはいきなり始まった。
菅野、千賀、上野がパイプ椅子に腰かけて会話を始めたのである。
「年末年始のメディアでの対談みたいですね」
上野が笑った。いや、テレビの特番でもこの3人をブッキングするのは不可能に近い。
和やかなムードの中、上野は聞き役に回っていた。
「菅野くんの気持ちは分からなくないです」
菅野が上野に聞いてみたかったこと。それは自身の悩みについてだった。
昨シーズンは11勝6敗、防御率3.89に終わった。並の投手ならば及第点といえる数字だが、3年連続の沢村賞が期待されていた菅野である。限りなく頂上に近い景色を見た人間にしか分からない苦しみがそこにはあった。
菅野にしてみれば、上野にならば自分の胸の内を本当に理解してもらえるのではないかと思ったのだろう。
上野は、菅野の言葉をじっと聞いていた。
ある程度のところで、グラウンド使用時間のタイムリミットを迎えてしまった。だが、鴻江合宿の夜は長い。毎晩、時計の針がてっぺんを越えても体のケアや動作解析を行い、そして選手たちがスタッフも交えて意見交換を行うのが常となっている。
夜の部の集合のために、筆者は上野を迎えに行った。車を走らせるあいだ、上野が三者会談の様子について語ってくれた。
「菅野くんの気持ちは分からなくないです。やっぱり、ずっとトップを走ってきているから、そこから落ちたショックというか……自分自身が許せないと思うんです。でも、それを経験したから、今シーズンは強くなるんじゃないかなって思いますけどね」