フランス・フットボール通信BACK NUMBER
アフリカの小国・ジブチが起こした
サッカーW杯一次予選突破の奇跡!
text by
フランク・シモンFrank Simon
photograph byAlexis Reau/L'Equipe
posted2020/01/14 08:00
フランス人のサッカー指導者・ジュリアン・メットはまだ37歳。フランスは、世界各国に優れた若き指導者を送り込んている。
チームの合言葉は“DJIBOUTI”。
彼が最初に目をつけたのはひとりのプロ選手だった。
RFCセランに所属するハッサン・フセイン・ワルサマがその選手で、「スタンダール・リエージュ」で育成されたワルサマは、ベルギーU-15・U-16代表経験を持っていた。彼こそがパズルの最初のピースだった。
話をトライアウトに戻す。メットはボール紙に大文字で“DJIBOUTI”と書いた。それぞれの文字はキーとなるコンセプトを示している。
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Dがディシプリン、Jがジュウ(フランス語で「プレー」の意)、Iがインテリジェンス、Bがボテ(美しさ)、Oがオルグイユ(自尊心、誇り)、Uがユニオン(団結)、Tがトラバーユ(労働)、Iがアンベスティスモン(投資)である。
同時に彼は、ここまでの成果も彼らに示した。とりわけ7月の親善試合で隣国のライバルであるソマリアに勝利(1対0)したことは、ジブチに大きな自信を与えた。
メットが語る。
「5月以降は29人のグループで活動してきた。CHAN2020予選でエチオピアには敗れた(0-1、3-4)が、勝敗の行方は試合終了2分前までわからなかった。何よりジブチがアウェーで3得点をあげるのは、史上初のことだったんだ!
僕がここにいるのは、ヨーロッパに点在していたジブチの人たちに、彼らに対しても真剣な眼差しが注がれていることを示すためだ。ヨーロッパでのトライアウトはもちろん初めてで、基準はとてもシンプルだ。
スポーツ面のみに限られるが、とりわけ若者たちがストレスにどう対処できるかが試される。この中から2~3人が代表のグループに加わり、9月にカタールで予定している合宿に参加できるようになるなら、本当に素晴らしいことなのだけど」
自国のサポーターも信じられない成果が。
スレイマン・ワベリ協会会長の祝辞を受けたトライアウトでは、実際に幾人かの選手が代表にピックアップされた。
パリ近郊のクラブでプレーするMFのハルーンがそうであり、「アキテーヌ」に所属し、すでにU17代表でもプレーしていた左SBのテクビルがそうであった。また彼ら以外にも、メットはふたつの名前をカタールでの合宿リストに加えた。
だが、彼らのうち、ひとりとしてエスワティニとのワールドカップ予備予選には呼ばれなかった。そして初戦で2対1と勝利を収めていたジブチは、9月10日におこなわれた第2戦も0-0で引き分け、アフリカ予選本戦出場を果たした。
ジブチサッカー史上最大の快挙であり、4年前には同じ相手に2試合合計1-8で敗れていたこともあって、サポーターも結果をにわかには信じられなかった。
「ジブチには優れたプレーを志向する文化はあっても、競争を戦い抜く精神はなかった」とメットは説明してくれた。