マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
村上宗隆の36本塁打と184三振。
プロで本塁打を“普通に”打つ男。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2020/01/06 19:00
新人王も文句なしで獲得し、同世代の才能たちをごぼう抜きにした感がある村上宗隆。独走は続くか。
村上のスイングは、タイミングが合えばこそ。
一方の村上宗隆はどうか。
とにかく、バットが振れる。振る意欲もあふれんばかりだし、振り抜くエネルギーは有り余るほど。
あれだけ思い残すことなく、豪快に振りまくったら、さぞ気持ちがいいだろうなぁ……と、現役時代は三振が怖くて、当てにいくようなスイングしかできなかった“ヘボ”としては、嫉妬するほどうらやましい。
あれだけ振れるのは、タイミングが合っているからだ。タイミングが合っていなくては、あれだけ決然とバットを振ることはできない。これは、一度でも野球をしたことがある者の「共通実感」であろう。
ただ、「フルスイング」が思い余って、踏み込みが大きくなり過ぎることがある。
歩くときと同じで、大きな1歩を踏み出すとどうしても腰の位置が落ちる。スイングも、踏み込みが大きいと腰が落ちる。腰が落ちれば頭の位置が下がり、目の位置も下がるから、タイミングは合っていてもボールの“高低”を間違えて空振りが増え、凡打より三振が増える傾向になる。
それが、2019年のセ・リーグダントツの「184三振」という“偉大な記録”につながったともいえる。
スイングの特徴はシンプルさ。
清宮幸太郎選手だって、すばらしくバットが振れる。やはり、タイミングを合わせるのが上手い。
清宮幸太郎と村上宗隆との違いは、インパクトまでの全身の連動に回り道があるかないか……その違いだ。
清宮選手には、振り始める前に、バットヘッドが投手方向に入り過ぎたり、ヒッチが挟まったり、一般論でいう「余計な動作」がある。本人は、そこでバットを振り出すリズムを作り、タイミングのきっかけを作っているのだが、それが打ち損じの原因にもなる諸刃の剣となって、投手のレベルが上がった時に、慣れるまでに少々時間を要す。
村上選手にはそうした雑味がなく、素直に構えてサッと振り抜いて、ほとんど作ったところがない。投球にタイミングを合わせやすいシンプルさが、村上宗隆のスイングの特徴だ。