プロ野球亭日乗BACK NUMBER
大成への岐路に立つ巨人・戸郷翔征。
真っ直ぐと「自信」をいかに磨くか。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKYODO
posted2019/12/29 11:00
2019年9月のDeNA戦でプロ初勝利を挙げ、原監督(左)と握手する巨人・戸郷。メジャーリーグに移籍した山口俊の穴を埋められるか。
コースも高さも狙い通りだったが……。
「あそこで三振が取れたと思った」
戸郷が振り返った球は外角低めのカットボール。コースも高さも狙い通りに投げられた。だがこの1球が、戸郷を地獄に引きずり落としたのだ。内川が左手1本で拾った打球は、三遊間を破り左前へと転がった。
「たまたまです。狙って打ったわけではない」
こう振り返ったのは内川だ。
「慌ててバットを出したら、当たった感じでしたね。追い込まれていたし、当てないといけないという思いがありましたから……」
それでも2球目の空振りでボールとの距離感をしっかり刻み込み、あえて右手を離して逃げていくボールにバットをぶつけにいった。まさにプロフェッショナルの技だった。
この1打から四球、送りバントの処理を自ら三塁に悪送球してピンチを広げると犠飛、アルフレド・デスパイネ外野手の適時打などで4点を失いマウンドを降りた。
トップ中のトップの技術。
「引きずらずに投げようと思ったけど、内川さんの1本の印象がデカかった。あそこで気持ちが落ちてしまったのかなと思います」
これまで自分が経験してきた高校野球やファームの試合では、あそこに納得のいくボールを投げ切れれば、ほぼ三振か凡打に打ち取れていたはずだった。
それを片手でヒットにされた。
これが一軍の野球であり、プロにおけるトップ中のトップの技術なのである。仙さんが語った「自信が完全に打ち砕かれた瞬間」だった。
怖いもの知らずに走り続けてきたルーキーが、初めて知ったプロの世界の怖さ。改めてプロの世界の壁の高さに打ちのめされた。
しかし1年目に日本シリーズという大舞台で、その怖さを知ったことは、戸郷を大きく羽ばたかせるきっかけにもなるはずである。