“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
布先生が教え子と交わした熱い抱擁。
群馬J2昇格の裏に市船の師弟関係。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/12/13 15:00
J2昇格を決め、笑顔で写真に収まる群馬・布監督(左)と渡辺。先日、布監督は松本山雅FCへの就任が発表されたが、2人の関係が途切れることはない。
錚々たる先輩に囲まれた1年生。
布は入学してきた渡辺をCBにコンバートした。
渡辺が入学した当時、CBのポジションは最激戦区だった。「堅守・市船」の象徴でもある背番号5を背負っていたキャプテンの大久保裕樹やコンビを組んでいた青木良太、その1つ下の世代には増嶋竜也(千葉)が並び、DF以外でも小宮山尊信、小川佳純(元新潟)、原一樹(元熊本)など、3年生には後のJリーガーとして活躍する選手たちがそろっていた。
試合の出場こそ難しかったが、それでも布は1年生の渡辺を常にAチームに帯同させた。それは、布が渡辺に送った「将来は彼らのようにお前が柱となれよ」というメッセージでもあり、彼自身もそれをしっかりと感じ取っていた。
「試合に出られなくても、毎日が本当に刺激的でした。2年生にも増嶋さん、カレン・ロバートさん、鈴木修人さん、佐藤優也(千葉)、石井秀典(徳島)さんと錚々たるメンバーがいた。1年生からそんな人たちに囲まれて練習や遠征をするのは、学びしかありませんでした。他にも同じポジションで上手い先輩もいたので『俺なんかがここにいていいの?』と思っていました」
しかし、布はこの年の高校選手権優勝を置き土産に退職。翌年にU-16日本代表の監督に就任した。師弟関係はわずか1年で解消になった。
背番号5をつけて成長、プロの道へ。
その後、渡辺はすくすくと成長を続けた。2年で不動のレギュラーの座を掴み、先輩・増嶋とのコンビで高円宮杯全日本ユース(現・高円宮杯プレミアリーグファイナル)で優勝。その増嶋から背番号5とキャプテンマークを引き継いだ3年時では、インターハイ準優勝、選手権準優勝という成績を残した。翌年、ベガルタ仙台に加入し、プロキャリアをスタートさせた。
仙台で10年、モンテディオ山形で2年過ごした後、山口へ移籍。そこで2年目のシーズンを迎えていた2018年、布はJ3群馬の監督に就任していた。
「夏くらいに、布先生から『もし来年、群馬がJ2に上がったら力を貸してほしい』と電話をもらったんです。教え子なんて数多くいるのに、なぜ俺に声をかけてくれたのかが不思議だったし、嬉しかった」
その年、群馬はJ3で5位で終わり、J2昇格を果たせなかったが、渡辺も去就について不穏な空気が流れ始めていた。