“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
布先生が教え子と交わした熱い抱擁。
群馬J2昇格の裏に市船の師弟関係。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/12/13 15:00
J2昇格を決め、笑顔で写真に収まる群馬・布監督(左)と渡辺。先日、布監督は松本山雅FCへの就任が発表されたが、2人の関係が途切れることはない。
「先生と生徒だった関係は取っ払って」
「最初は(山口から)移籍をするつもりはなかったのですが、残るのが厳しい状況になったので、移籍先を探し始めたんです。もちろん残る可能性もありましたが、もう他のJ2クラブは補強がひと段落していた時期で、宙ぶらりんの状態に……。その時にもう1度、声を掛けてくれたのが布先生でした」
渡辺は中学時代と同じように布の誘いを受け、群馬へレンタル移籍を決断した。同時に厳しい言葉をかけていた。
「ただ、お前が来るからと言って、スタメンで使うとは思うなよ。ちゃんとした競争がある世界だから、お前がちゃんと正当に(ポジションを)勝ち取らないと。俺とお前が先生と生徒だった関係は取っ払ってやってほしい」
その言葉には、教え子への愛情が詰まっていた。
「もちろんです。群馬のために全力を尽くします」
渡辺は力強く答え、覚悟を持って自身初のJ3のシーズンに臨んだ。
リーグ戦全試合フル出場。
「プレシーズンの時から使ってくれて、副キャプテンに任命してくれた。この時点で『お前が引っ張っていけよ』という布先生の無言のメッセージを受け取りました」
開幕戦からCBとしてレギュラーの座を勝ち取ると、リーグ34試合の全試合にフル出場。勝てない時期も、昇格圏内から遠のく時期もあったが、布は渡辺をずっと使い続けた。彼もその期待に期待に応えるべく、すべてをチームのために注ぎ込んだ。
最終節の福島戦、その2人の思いが結実する。
J2昇格がかかった大一番で、均衡した試合を動かしたのが渡辺だった。
48分、群馬は右FKを得ると、MF姫野宥弥のキックに鮮やかなジャンピングボレーシュートで合わせ、ゴールを奪って見せた。このゴールで勢いに乗った群馬は55分にもPKで加点。終盤は渡辺を中心に身体を張って守りきり、最後は4トップにして反撃に出た福島を1点に抑えた。