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久保建英、初カンプノウの試合前。
カメラマンが捉えた“一瞬の瞑想”。
text by
中島大介Daisuke Nakashima
photograph byDaisuke Nakashima
posted2019/12/14 20:00
カンプノウに立ち、目をつむった久保建英。彼の心の中にはどのような感情が渦巻いていたのだろうか。
顔を上げると久保の表情は……。
ただ顔を上げた時、すでに表情には一点の曇りもなく、イヤフォンから流れる音楽に身を任せるようにリズムに乗りながら、ロッカールームに戻って行った。
「聞いている曲は、小田和正ではないだろうな」などと思いつつ、久保がこれ以上バルサに対して、今日の対戦相手という以外の特別な感情を表すことはないなと確信した。
久保を迎えるバルセロニスタたちの反応はどのようなものなのか。サッカー関係者や日本人ファンにとってはかなり大きなトピックだったが、カンプ・ノウに訪れる現地のファンはどこまで彼のことを認知しているのだろうか。
正直、写真ではなかなか表現できない事象ではあるが、10万人の観客席とピッチの間にある撮影ポジションでは、「鼓膜」で体感することができた。
開始早々に久保は中央でフェバスとのワンツーで決定機を作りかけた。その直後、今度は右サイドに開いて、ゴールに背をむける形でジャンプしながらボールをコントロール。ゴールに向き直るや否や、この日最初のマジョルカの26番へのブーイングが鳴り響いた。
しかし臆することなく、対面のジュニオールをかわしゴール前にクロス。左足から放り込まれたボールは、すんでのところでクリアされてしまったが、この日最初の大きなゴールチャンスとなった。
この日唯一ブーイングを受けた選手。
細かい試合展開や戦術などは専門の方が書いた記事に任せたいが、この日のバルサ、特に前半のプレーは今季最高レベルだった。4点目のスアレスのゴールは、本人がキャリアでのベストゴールと述べ、メッシの左足から放たれたボールは3度ネットを揺らした。
最終的に5-2とバルサが結果、内容ともに圧勝した中で、孤軍奮闘の活躍を見せた久保には、最後までボールを持つ度に大きなブーイングが浴びせられた。
この試合で唯一ブーイングを浴びた選手、となったのだ。
自分たちはマドリーよりも強く、それ故にスペインで一番であり、世界一のクラブだと信じているバルサファンが、18歳の日本人の一挙手一投足に反応を見せることに、同じ日本人としてその場にいることが誇らしく、興奮し身体が熱を発していた。
それは12月の寒空の下、レンズ越しにその姿を必死に追いかけながらコートのファスナーを下ろすほどだった。