水沼貴史のNice Middle!BACK NUMBER
水沼貴史が語るマリノス優勝と秘話。
小5の喜田拓也、引退の栗原勇蔵へ。
text by
水沼貴史Takashi Mizunuma
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/12/12 11:15
小学生の頃からマリノスの下部組織で育ったMF喜田拓也。主将として15年ぶりのJ1優勝に貢献した。
仲川の良さは「背後」への意識。
JリーグMVPに輝いた仲川輝人にとっても飛躍の1年となりました。彼の良さは、狙う場所が常に「背後」であること。ドリブラーと言われますが、最初から中へ持ち込もうとはしないんです。まず縦に進み、「深み」を取る。そうすることでマルコス・ジュニオールを生かすスペースも作れるし、中途半端な位置でボールを失うこともない。
彼の動きを見ていると、相手が背後を警戒していると感じたらよくフェイクの動き(後ろにいくように見せてから止まる)を入れている。指導者も口酸っぱく伝えるけど、日本人でそういうプレーを繰り返せる選手は少ないんです。世界を見ても決定力やスピードだけでなく、この能力がある選手がワールドクラスになれる。(リバプールの)サラーやマネだって、いつも背後を狙っていますからね。「背後を狙ってくる」と相手に思わせている時点で大きなアドバンテージになり、選択肢が増える。少年少女たちの良い見本になったと思います。
彼はマリノス入団前に膝の大怪我を経験しました。それでも獲得してくれたチームに対して、恩返しの気持ちもあったでしょう。苦労が報われたMVP受賞でした。
畠中の成長も促したDFチアゴ。
彼らと同様にマリノスサッカーを支えた選手として、DFチアゴ・マルチンスも挙げておきたい。現在のハイラインを敷く戦術はチアゴがいないと成り立ちません。あれだけスプリントをするセンターバックはなかなか見当たりませんよ。
彼には仲間に感謝するメンタリティが備わっていました。「前線の選手がプレッシャーをかけてくれるからこそ、自分のプレーを発揮できるんだ」と話していたのが印象的でした。それでいて、味方のプレスの強度が緩んだときは鼓舞もする。ヨーロッパでも十分、通用するレベルだと思います。
またチアゴの存在があったからこそ、センターバックを組んだ畠中槙之輔が日本代表に選ばれるまで成長したとも言えます。選手が一気に成長するときは、必ずチームにいいパートナーがいるものなんです。直近で言えば、先日A代表デビューした古橋亨梧(神戸)にはイニエスタやビジャがいますし、柏レイソル時代の酒井宏樹(マルセイユ)が代表、欧州とステップアップできたのは、彼の前にレアンドロ・ドミンゲスがいたからこそ。質が高い選手とプレーすると、どんどん伸びる。そういう巡り合わせもおもしろいですよね。