現実から目を背けたのか？　それとも……。

　やがて、2つの思いを心に宿すようになった。

　1つはもちろん、自らの成長に対する信念だ。一軍に居場所を確保する難しさは知りつつも、だからといって努力を怠ることはプロとしてあり得ない。大村の言葉は常に頭にあり、ファームを主戦場としながら腐らなかった。

「一軍で、たとえばスタメンで使うとか、途中から出すっていうのは、ぼくが決められないこと。そこで『レギュラーで出たい』とかって考えるのは、ムダな気がして。人が決めることをぼくが考えたって、どうしようもないじゃないですか。出番が来たときに結果を残せるような準備をひたすらしていました」

　上の心理を「現実から目を背けた」とあえて表現するなら、西森は同時に、現実を受け入れもした。

　ファームに身を置かざるを得ない現状に向き合い、考えた。わずかながらに一軍を経験した捕手は、チームのために何ができるのか――と。

　西森の視界に入ったのは、若い投手の姿だった。将来性を認められ一軍に呼ばれた投手たちはしかし、多くは悔しさとともにファーム施設のある横須賀に帰ってきた。自分が果たすべき役割を、西森はそこに見いだす。

「いまのこの子たちに何が必要なのかなって、常に考えてて。

　若くて素材のいいピッチャーがいっぱいいるじゃないですか。彼らは絶対、一軍で主戦で投げれる。ヘタしたら2ケタ勝つんちゃうかってずっと思ってるんです。でも、何が足りひんのかなって。ぼくなりに分析して、こうしたほうがいいんじゃないかっていうのを伝えてきたつもりです。

　こいつらに、一軍で結果を残せる選手になってほしいなっていう願いも込めて。今年に関してはもう、ほぼそれだけでした」

「あいつなら絶対2ケタ勝てます」

　とりわけ西森が期待を寄せている投手が、平良拳太郎だ。

　2年連続で5勝を稼いだ24歳の可能性を語るとき、西森の口調は、自分について話すとき以上に熱を帯びる。

「あいつなら絶対2ケタ勝てます。持ってる球は一級品ですし、フォームでタイミングを狂わせる器用さもある。条件としては、本人にもずっと言ってきたんですけど、『インコースに投げれな絶対アカン』と。あいつは気がやさしいんで」

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