マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
ドラフト後は“答え合わせ”の時期。
スカウトが唸る「獲っとけば……」。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2019/11/12 11:30
日本の野球界で、注目度と重要度が最も離れている大会の1つが社会人野球の日本選手権だろう。
スカウトがベストプレーに立ち会えるか。
「こうやってピッチング見てると、考えちゃうんですよ。こんないいピッチャー、なんで獲れなかったのかなぁってね。だって、スライダー、カーブ、チェンジアップ……いつでもストライクとれる変化球が3つもあって、左バッターの内角に速球もスライダーも決められるコントロールもあって。サウスポーのキモはそこですから」
今は、日本生命は担当地区のチームではないから、今年の高橋投手をマークしていたのは、ほかのスカウトだったという。
「なのであんまり言うと、非難してるみたいに聞こえるかもしれないんですけど……」と、断りを入れた上で、
「ドラフトは難しいんです。その選手のベストプレーに出会えるか、そこがポイントになるんです。マークしている選手は何人もいますから、その選手の全試合を見られるわけじゃない。たまたま、ベストプレーを見逃すこともあります。
ベストプレー、つまりその選手の“最大値”を確認していると強力に推せますが、そうでないと確信が持てなくて、なんとなく名前が消えていく。特に、こういう高橋みたいな好投手タイプは、150キロとかデカイ数字を持ってないでしょ。スカウト会議でも、その良さを、なかなか説明しにくいんです」
「プロでいえば、楽天の辛島ですよ」
試合は終盤に入り、日本生命・高橋拓已は、なおもJR九州打線につけ入る隙を与えない。
「135キロ前後、ほぼ同じスピードでまっすぐとカットボールを使い分けているように見えます。まっすぐを速く見せるテクニックも十分持ってるし、左バッター相手にもコントロールが乱れない。
プロでいえば、楽天の辛島ですよ。速いのはファームにもいくらでもいますが、この高橋みたいに、打者の様子をうかがいながら、タイミング外しながら投げられる左腕なんて、いませんよ、なかなか」
試合は結局、日本生命・高橋拓已投手が、JR九州打線を6安打、長打も二塁打1本に封じて完封して終わった。
奪った三振は、9個にのぼっていた。