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ディープ&武豊にオルフェーヴル。
凱旋門賞、日本馬の足跡と悲願。
text by
平松さとしSatoshi Hiramatsu
photograph bySatoshi Hiramatsu
posted2019/10/04 07:00
世界最強の女王、エネイブル。前走のヨークシャーオークスで10個めとなるGIタイトルを獲得した。
「当時の夢を見てうなされることが」
「間違いなく当時ナンバー1の力を持っていたと思われるディープを勝たせてあげられませんでした。だから僕は今でもあの当時の夢を見てうなされることがあるんです」
あれから10年以上経った後、彼の口からそんな言葉を聞いた。今も変わらぬディープインパクトへの信頼感と凱旋門賞制覇への熱い想い。それらを同時に感じ取ることが出来たひと言であった。
これ以降の10月の第1日曜日は、毎年欠かさずパリを訪れているが、やはり印象深いのは日本からの挑戦者が好勝負を演じた時となる。
'10年には伏兵と思われたナカヤマフェスタが、勝ったワークフォースのアタマ差に迫る大善戦。11年前のエルコンドルパサーの時と同様、二ノ宮敬宇調教師(当時)と蛯名正義騎手のコンビは実に格好が良かった。
レース直後、好走に頬を緩めるでも逆に悔しそうな表情を浮かべるでもなく、ただ事実を事実として受け止めるという感じで、二ノ宮元調教師は次のように語った。
「エルコンドルが半馬身差で今回はアタマ差。差は縮まったかも知れないが、勝てなかったという事実には違いはありません。つまり、我々にはまだ何かが足りないということです」
その足りないモノが何かを突き止めて、いつかはこのヨーロッパの頂に立ちたいと語っていたが、その後は残念ながら、体調を崩して'18年に勇退。定年を待たずして自らリベンジへの道を断つことになった。
もしオルフェの鞍上が池添だったら。
オルフェーヴルの2年連続2着('12、'13年)も思い出深い。とくに1回目の'12年。完全に抜け出したがO・ペリエ騎手の乗るダークホース・ソレミアがゴール直前で急襲。ヨレてラチにぶつかったオルフェーヴルをギリギリで捉え、日本のホースマンとファンが願っていた戴冠シーンはあと一歩のところで儚い夢と消えた。
この時、手綱を取っていたのはクリストフ・スミヨン騎手。フランスで数々の記録を塗り替える名ジョッキーではあるが、「果たして主戦である池添謙一騎手のままだったらどういう結果が待っていたのだろう?」。そう思わずにいられない結末であった。
その後、トレヴの連覇('13、'14年)も印象的ではあったが、連覇といえばやはりエネイブルである。一昨年は代替えとなったシャンティイ競馬場で、そして昨年は新装なったパリロンシャン競馬場で頂点に立った彼女は、冒頭で記したように今年、凱旋門賞史上初の3連覇へ挑む。
脚部不安でギリギリ間に合った昨年と違い「今年は順調そのもの」と伯楽ジョン・ゴスデン調教師が言えば、数多の名馬の背中を知るデットーリ騎手をして「僕が乗った馬の中でも最強だね」と言わしめる。実際、今年に入ってからのパフォーマンスに衰えは全く感じられず、破って来た相手のレベルも高い。