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MGCは日本マラソン最高の名勝負に。
瀬古利彦「設楽くんのおかげです」。
text by
涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph byNanae Suzuki
posted2019/09/28 11:30
神宮外苑の芝生広場でのパブリックビューイング。先頭を走る設楽が映し出される。
「超えたな、今日は。おもしろかった」
瀬古世代のレースを東京五輪世代のMGCは越えたのか――。当事者の答えは明確だった。
「超えましたね! 僕は自分のレースを見てないけど、でも、超えたな、今日は。おもしろかった」
そしてその要因を尋ねられたときに出てきたのが、冒頭の言葉だった。
「(面白かったのは)設楽くんのおかげだ。設楽がいかなかったら、こんな展開になってないと思う。彼には感謝しています。勇気? すごいですよ、この大試合でああいうこと(飛び出し)ができるのは。もう本当に、なかなかのもんです」
瀬古リーダーの言葉は記者が集まったプレスルームの雰囲気とも合致していた。スタート直後から設楽が飛び出し、10秒、20秒、30秒とどんどん差が開いていくことが確認できると、プレスルームはざわつき、どよめいた。
レース前々日の記者会見で「大逃げ」をほのめかしていたとはいえ、実際のレースで自分の意志を貫き通すのは簡単なことではない。その度胸には個人的にも賞賛を送りたかった。
また、レースの盛り上がりという意味でも、序盤に見せ場を作ってくれたのはMGCが「名勝負」となる上でも大きかった。設楽がこのまま逃げ切るのか、なぜこんなことができるのか、この気温がどう影響するのか……。
プレスルームでもそんな熱気に溢れる会話が飛び交っていた。スタートから全選手がけん制しあい、じっくり力を溜めて30km過ぎからヨーイドンという展開ではこうはいかかっただろう。
名勝負は「設楽くんのおかげ」。
この「設楽の飛び出し」という状況があったからこそ、それを追う第2集団の駆け引きにも集団内の位置取りだけでなく、「先頭に追いつけるかどうか」というファクターが加わった。
そしてその競り合いによってふるいにかけられたからこそ、中村、服部、大迫という、箱根駅伝ファンにもおなじみの地力のある3人による、息を呑むようなラスト3kmの競り合いになったのだろう。
瀬古リーダーのいうように「設楽くんのおかげ」で、MGCは日本マラソン史上屈指の名勝負になったといえる。