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元朝青龍「あの子は相当行くよ」
甥・豊昇龍に送った激励と力士の金言。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byKyodo News
posted2019/09/28 09:00
新十両に昇進し、叔父であり元横綱である朝青龍のパネルとともに笑顔を見せる豊昇龍。.
朝青龍「あの子は相当行くよ」
そして、奮起した甥は4勝3敗と勝ち越し、今回の昇進と相成ったのだ。師匠の立浪親方はいう。
「入門前から、朝青龍はものすごく期待していました。『あの子は相当行くよ』とも言ってましたから」
かつて、モンゴル力士第1号として来日した旭鷲山や旭天鵬らを弟弟子に持った立浪親方は、愛弟子の魅力についてこう語る。
「やはり“精神力”ですよね。実は、先場所もちょっとしたケガをしまして、『休場させようか』とも考えたのですが、結果、出場して勝ち越した。持って生まれた運動神経もそうですが、体幹、足腰も違う。並じゃないです。
旭鷲山らもそうでしたね。ハングリーだし、私も現役当時、もっと頑張ろうと思えたのは、モンゴルの彼らの姿を見ていたからなんです。豊昇龍は夕方から自主トレもするし、負けた自分の相撲のビデオを繰り返し繰り返し、いつも見ている。『そこまで相撲が好きなんだ。すごいな』と思うくらいです。うちの他の力士たちも、それは感じていると思いますよ」
ヤンチャだった朝青龍から酒のアドバイス。
現在の相撲界では、同時昇進した琴手計改め琴勝峰ほか、大鵬の孫の納谷など同世代の力士が多士済々。これからも鎬を削ってゆくだろう。
「うちの部屋だけじゃなくて、同世代のライバルにも、きっといい影響を与える存在だと思っています。あとは体重を徐々に増やしてね。まだまだ始まったばかりで、まだまだ上に行く力士だと思うので、大事に育てて行きたい」
そう言って愛弟子を見遣る親方だった。
叔父からは、ことあるごとに金言をもらうという甥。「山の上じゃなくて足の下の石を見ろ」「目の前の相手のことだけを考えて、その先は考えるな」。そして、会見後の甥は、大まじめな顔でこう言った。
「酒は飲まないです。おじさんにずっと言われていたのはそれです。『絶対に飲み過ぎちゃいけない』って」
おそらく、ヤンチャ横綱だった朝青龍自身の経験から来たであろう、この“金言”。報道陣はつい苦笑いするのだが、豊昇龍本人は今までもこれからも、肝に銘じているそうだ。