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敵地でいじられ、死球でもなごむ。
日本ハム杉谷拳士が愛される理由。

posted2019/09/18 20:00

 
敵地でいじられ、死球でもなごむ。日本ハム杉谷拳士が愛される理由。<Number Web> photograph by Kyodo News

本塁打を放ってベンチに戻っても、チームメイトに“無視”されてしまう杉谷拳士。ファンはそんな姿を見るのも楽しい。

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高山通史

高山通史Michifumi Takayama

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Kyodo News

 緑の芝生へと水しぶきを上げながら、そして立て続けにホームベース上のブルーシートへとヘッドスライディングを連発して、飛び込んでいった。

 多くのチームメートが、ベンチなどから雨宿りしながら見つめ、爆笑をしていた。

 9月16日、旭川スタルヒン球場での微笑ましい一コマである。快勝した試合後、今シーズン限りで引退する田中賢介選手が球場内を1周して、ファンの声援に応えた。その感動のセレモニーを終えた時だった。

 田中賢選手の背番号「3」のユニホームが、またグラウンドへと姿を現したのだ。一気に沸く。ただ雨天なのに、サングラスをしている。田中賢選手のシンボルカラーのピンクのリストバンドを装着している。背格好も、相似。違和感があった方々も多かっただろうが、スタンドからの目視では田中賢選手本人だと認識していた方々が大半だろう。

 もうタネ明かしも済んでいるので、ご存じだろう。田中賢選手に扮して、パフォーマンスを披露したのが、杉谷拳士選手である。最後の最後に、主役の座をかっさらっていった。ずぶ濡れで戻ってくると、愛情たっぷりの「罵声」をチームメートから浴びせられていた。杉谷選手、お決まりの儀式である。

 ファイターズでは唯一無二の存在感で「杉谷拳士」という定位置を、確立している。

敵地でも死球でもいじられる。

 敵地メットライフドームでの試合前の打撃練習中、埼玉西武ライオンズからの爆笑アナウンスも風物詩となっている。恒例となって期待している場内は盛り上がり、張り詰めた空気が緩む。

 先発出場しない場合、ライオンズ戦は杉谷選手の打撃練習の順番が最後になっているケースが多い。他選手へ配慮もし、目いっぱいそのシーンを杉谷選手、ライオンズのアナウンサー、そして観客の方々に楽しんでもらうための特別なオペレーション。コーチ陣の「忖度」だろう。栗山監督は練習をチェックしている時は、表情を崩すことが少ない。それでもこらえきれず、口元を手で押さえているシーンもよく目にする。

 死球を受けた際のややオーバーなアピールも、同じである。自軍のベンチは心配するよりも、笑いが起き、沸いている。相手チームのベンチから見つめている面々の何人かは苦笑し、杉谷選手と親しい間柄の選手からはヤジも飛ばされている。もちろん心無いものではなく、ほっこりとするような内容だそうだ。他球団からも、特異な才、キャラクターを認知されているのである。

【次ページ】 オフはテレビに引っ張りだこ。

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