甲子園の風BACK NUMBER
1イニングで終わった世界デビュー。
佐々木朗希が自己主張したあの瞬間。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byAFLO
posted2019/09/18 07:00
佐々木朗希にとっては不完全燃焼となったU-18ワールドカップ。しかし彼のピークはずっと先にあるはずだ。
大一番を前に、生じた指の異変。
その試合後、永田裕治監督が翌日の韓国戦の先発登板を打診すると、佐々木は「絶対いけます」と答えたという。
しかし韓国戦の試合前のブルペンで、佐々木の球は走っていなかった。日本高校野球連盟の竹中雅彦事務局長は、韓国戦の後、佐々木の状態についてこう説明した。
「今日の(試合前の)ブルペンで投げている時から、ちょっと違和感があったようです。中指のまめが、治っていたところが再発した。昨日ああいうゲームだったので、ブルペンで何度も作って、いつでもいける状況にしましたが、作る球数が多かったようです」
しかし佐々木は表情には何も出さず、黙々と準備をして韓国戦の1回のマウンドに上がった。
先頭打者を153キロのストレートでショートゴロに打ち取る。
次打者には150キロ台のボールを続けたが、コントロールがままならず、ストレートの四球。
捕手の水上は、「カナダ戦の日のブルペンでは、指にかかったいいストレートだったけど、韓国戦はちょっとシュート気味のストレートだった」と振り返る。
それでも3番打者をレフトフライに打ち取り、2アウトとなった。
佐々木が珍しくした自己主張。
しかし水上は、ボールに血がついていることに気づいていた。それをベンチに知らせると、永田監督がマウンドに向かった。
「あと1人、投げさせてください」
佐々木はそう訴えた。
「とにかく、自分が作ったピンチだったので、初回だけは抑えたいなと思って、言いました」と試合後、振り返った。
永田監督は佐々木を続投させた。
「なかなか自己主張をしないですからね。その彼が、自己主張してきましたので」
韓国の4番、張裁榮に対し、佐々木はフルカウントから空振り三振を奪い、マウンドを降りた。2回からは、外野手として先発出場していた西がマウンドに上がった。
急遽の登板となった西が踏ん張って0点でつなぎ、日本は7回表に熊田任洋(東邦)、水上の適時打で2−0とリードしたが、8回に守備にミスが出て同点とされ、タイブレークの延長戦へ。10回表に武岡龍世(八戸学院光星)の2点適時打で4−2と再びリードするが、その裏、またも守備の乱れからピンチを広げ、4−5でサヨナラ負けを喫した。