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空手界のプリンスが武道館で優勝。
西村拳は東京五輪の金に突き進む。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2019/09/15 08:00
整った容姿から「空手界のプリンス」の異名を持つ西村。ジェルとスプレーでがっちりホールドした髪型も話題に。
「あこがれは消して、全力で試合をします」
今大会の準決勝後、決勝でアガイエフと対戦することに決まったとき、西村は武者震いするかのようにこう言った。
「アガイエフ選手はライバルなので、あこがれという言葉を使って良いかは分かりません。3歳で空手を始めた僕が、小さい頃から動画で見ていた選手です。その人とこの武道館の決勝で戦えるのは光栄で、すごく楽しみです。しかしここはあこがれは消して、全力で試合をします」
そして、自信のほどはどうかと質問されて即答した。
「100%です。言葉は発しないといけないと思っていますし、自己暗示なのですが、言葉が弱気だと回り回って試合中に自分に出てしまう。だからいつでも強気。過信はダメですが、自分は練習を信じていますから」
レジェンドに対する西村の「作戦」。
西村いわく、百戦錬磨のアガイエフは戦術の引き出しを何十も持っている選手である。これまでも相まみえるたびに戦い方が違っていたという。
「毎回、いろいろなパターンをしてくるのがレジェンドと呼ばれる所以です。僕とは場数が違います。アガイエフ選手との試合は自分の力を最大限に出せる場。レジェンドに僕の技がどこまで通用するか。不謹慎かもしれないですが、楽しんでやっています」
ふたを開けてみると、今回の決勝戦のアガイエフは、ぎりぎりまで時間をつかってから最後に一撃必殺で勝つというプランで試合を進めていた。
西村はその戦略を見抜き、機を見て自分からどんどん技を出していった。ポイントこそ入らなかったが、手数でまさった。西村は試合後、「作戦勝ちだったと思う」と振り返った。