熱狂とカオス!魅惑の南米直送便BACK NUMBER
FIFA「ファン・アウォード」候補。
“2人のニコラス”を巡る深イイ話。
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byAlexander Hassenstein - FIFA /GettyImages
posted2019/09/16 20:00
昨年、FIFA「ファン・アウォード」を受賞したペルー代表サポーター。今年も南米勢が受賞するか?
ニコラス君が自動車事故で死亡した。
2016年3月、悲劇が起きた。ランプラ・ジュニオールのアウェーゲームに行ったニコラス君が、帰路、自動車事故で死亡したのである。19歳になったばかりだった。
「私は呆然とした。ニコの部屋に入ると、ランプラの旗やらユニフォームやら選手のポスターなどがたくさんあった。最初は、それらを全部焼いてやろうと思った。でも、よく考えると、ランプラに罪はない。ニコが短い生涯を通じて愛情を注ぎ続けた唯一のクラブだった。
私は、子供の頃からずっとセーロのファンだった。宿敵ランプラを応援するなんて絶対にありえないこと、のはずだった。でも、ランプラにはニコの魂が宿っているような気がした。
次にランプラがホームで試合をする日、私はスタジアムへ行き、いつもニコが立って応援していた場所に彼の灰をまいた。そして、生まれて初めてランプラの応援をした。そのとき、自分のすぐ隣にニコがいるような気がした。
『ニコは永遠にここにいる』という横断幕を用意し、それを持ってランプラの試合に行くようになった。ニコがいつも応援していた場所に立ち、フェンスに横断幕を張り、ニコの代わりにランプラを応援する。やがて、ニコと交流があった若いサポーターたちとも仲良くなった。
私の体には、セーロの血が流れている。しかし、私のハートはニコが愛したランプラのものだ。死ぬまでずっと、私はランプラの試合に来て、横断幕を張り、ランプラを応援する。ニコの魂と一緒に」
誰が表彰されるかなど、重要ではない?
シルビアさんとフストさん。いずれもサッカーをこよなく愛する南米人であり、片や母親として、片や父親として、くしくも同名の息子への深い愛情をサッカーを媒介として貫く。
今年の女子W杯で代表チームを熱狂的にサポートしたオランダ人たちも実に素晴らしい。しかし、個人的には、シルビアさんとフストさんのいずれかが今年の「ファン・アウォード」を手にするのではないかと考えている。
いや、誰が表彰されるかなど重要ではない。大切なのは、我が子を、人を愛する気持ち、そしてサッカーというこの素晴らしいスポーツを愛する気持ちなのではないだろうか。