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FIFA「ファン・アウォード」候補。
“2人のニコラス”を巡る深イイ話。
posted2019/09/16 20:00
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph by
Alexander Hassenstein - FIFA /GettyImages
今月23日、イタリアのミラノで「ザ・ベスト・FIFA・フットボール・アウォーズ」が催される。今年の世界最優秀選手(男女)、世界最優秀監督(男女)などが発表されて表彰を受けるのだが、この中に「ファン・アウォード」というあまり目立たない賞がある。
2016年に創設され、2016年はドルトムントとリバプールのサポーター、2017年はセルティック・サポーター、昨年はペルー代表サポーターが受賞した。今年は、ブラジルのシルビア・グレッコさん、ウルグアイのフスト・サンチェスさん、今年の女子ワールドカップ(W杯)で自国代表に熱い応援を送り続けたオランダ代表サポーターがノミネートされている。
生まれつき盲目で自閉症のニコラス君の母親。
シルビア・グレッコさんは、生まれつき盲目で自閉症のニコラス君(11)の母親だ。
ただし、生みの親ではない。「一人娘が成人したので、もう一人子供が欲しいと思い」(シルビアさん)、子供を育てる能力が乏しい親の赤ちゃんの養子縁組を申し込んだ。シルビアさんの前に、12人の親の候補者がいたが、赤ちゃんに障害があるとわかると皆尻込みした。シルビアさんは、「ニコラスは、私の息子になる運命だったのよ」と言って大喜びで受け入れ、実子と変わらぬ愛情を注いだ。
シルビアさんは自身がサンパウロの名門クラブ、パルメイラスの大ファン。ニコラス君が幼い頃からスタジアムへ連れて行き、一緒に試合を観戦した。
「ニコラスは試合の様子がわからないから、最初はラジオの実況中継を聞かせていたの。でも、どうもピンと来なかったみたい。それで、私が耳元で、個々のプレーはもちろん、スタジアムの雰囲気、選手たちの顔つきや髪型やシューズの色まで事細かく教えるようになったの。もちろん、愛するパルメイラスが得点したら『ゴール!』と絶叫し、抱き合って喜んだわ。すると、彼も次第に大声で叫んだり、悔しがったり、飛び上がって喜んだりといった自由な感情表現をするようになったの。
私は、障害者は積極的に社会へ出てゆくべきだし、社会も障害者を健常者と分け隔てなく受け入れるべきだと思っている。今では、ニコラスはスタジアムにいるときが一番幸せ。それは、私にとっても至福の時間なの」