野球のぼせもんBACK NUMBER
社会人→家業手伝い→大学→プロ。
ホークスの「異色」捕手・高谷裕亮。
posted2019/09/13 08:00
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph by
Kyodo News
ヤフオクドームの住所は中央区地行浜。それが示すようにすぐ裏手には、福岡市中心部から最も近くにあるビーチが広がっている。
海水浴を楽しむ若者、散歩をする老夫婦、そして汗だくで走るホークスの選手。
ナイターが行われる日の日常の風景だ。朝の海辺は練習場所になる。選手、コーチ、球団スタッフの姿が目撃されるのは珍しいことではない。
高谷裕亮もまた、その常連の1人だ。
ホークス生え抜き13年目の捕手。年間出場試合が100を超えたことは一度もないが、一軍出場のなかったシーズンもまた一度たりともない、今年11月で38歳を迎えるチーム最年長の野手だ。
福岡で絶大な人気を誇るホークスの選手なのだから、顔バレは珍しくない。ある日は「今日はお母さん世代の人たちに声を掛けられましたよ」などと笑っていた。
いやいや、走っている時なのだから遠慮してあげればいいのにと思うのだが、高谷は握手を求めるご婦人方に「汗まみれだけど大丈夫ですか?」と言って丁寧に対応したという。
そういうところは、ずっと変わらない。
「僕以外に誰かいるんですかね?」
憶えていることがある。
高谷が入団してきた年の最初の春季キャンプだ。ファンに握手を求められた高谷はバッティング手袋を外して、1人1人に応対していた。
いわゆる苦労人だ。
「僕以外に誰かいるんですかね?」
高谷自身もそう語っていた異色の経歴がそれを表している。
小山北桜高校を卒業後、3年後のプロ入りを目指して富士重工業に入社するが、高校時代に痛めた膝の古傷に苦しみ、かばって動くうちに腰も痛めてしまった。一度の公式戦出場もないまま、2年目の冬に退部。そのまま会社も辞めた。しばらくは実家の造園業の手伝いをして過ごした。