野球のぼせもんBACK NUMBER
社会人→家業手伝い→大学→プロ。
ホークスの「異色」捕手・高谷裕亮。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKyodo News
posted2019/09/13 08:00
9月5日の楽天戦で今季1号本塁打を放ち、ナインに迎えられる高谷裕亮(右端)。
競争相手の甲斐に惜しみなくアドバイス。
ホークスの正捕手はずっと年下の甲斐拓也だ。可愛い後輩でありチームメイトでもあるが、“コイツさえ居なければ”と考えても不思議でないのがプロ野球という世界だ。
しかし、高谷はダグアウトで、そしてロッカールームでも甲斐に惜しみなく声を掛けてアドバイスも送る。
「今のホークスは彼の頑張りで首位にずっといる。お互いが高め合い、1つの勝利に向かうことでチーム力が上がっていくんです」
チームの為になるのなら、脇役にだって徹する。その象徴は少し前までチームメイトを形態模写するモノマネだったが、最近はグラシアルが本塁打を放った際に行うパフォーマンスの相手役だ。
ベンチでのハイタッチの最後にボクシングポーズを行うのが通例なのだが、高谷は殴られ役を演じてチームメイトだけでなく観客席までも盛り上げてみせるのだ。
もちろん、高谷自身もまたマスクを被り、チームの勝利に幾度となく貢献をしてきた。特に「調子の上がらない投手を上手くリードして、しっかり試合を組み立てる」ことにかけては定評がある。そういった守りの信頼が高いから、試合終盤から出場することもしばしばだ。
グラシアルも自分も驚いたホームラン。
ペナントレースが佳境に入ってきた今日この頃。高谷の出番が増えている。9月5日のイーグルス戦(ヤフオクドーム)では、今季初めて2試合連続でスタメン出場した。
1つ年下で今季初登板だったベテラン中田賢一の粘りの投球を見事アシストした。そして1-1の同点で迎えた5回裏だ。バットで大仕事をやってのけた。
美馬学の投じたストレートを芯でとらえると、打球は右翼席へ一直線に伸びていった。今季1号勝ち越しソロ。ようやくマークした今季初打点でもあった。
「みんな驚いたと思うけど、僕が一番驚きました。奇跡です(笑)」
悠然とベースを回ればいいのに、足早にホームへ帰ってきた。ベンチで笑顔の仲間に出迎えられる。「あ、そうだ」と思い立った。ベンチの端でパンチを繰り出すと、グラシアルが急いで駆け寄ってきた。
「いつか俺がやるよなんて言っていたけど、本当に打つなんて思っていなかったから。ギクシャクしてましたね。ちゃんと打ち合わせをしておけばよかった(笑)」