日本代表への憧れはなかったが……。

　子供の頃、あまり日本代表への思いを強烈に抱いた記憶はない。小学校4年の頃にイタリアワールドカップ予選があり、中学校2年で「ドーハの悲劇」を見たが、どちらかというと国内のサッカーを観るよりも、自らのプレーに没頭した。

　転機は中3の夏に訪れた。中学校から入団したジェフユナイテッド市原・千葉ジュニアユースが、日本U-16代表と練習試合をすることになった。元々組まれていた別の対戦相手がキャンセルしたため、酒井の所属チームに機会が転がってきたのだった。

「確か1－2で負けたのですが、僕はボランチとして出場しながら、1ゴールを決めるなど、活躍できたんです」

　すると、代表のコーチングスタッフから声がかかった。

「もうちょっと見てみたいから、合宿に来てほしい」

　当時の酒井は、この出来事にあまりピンと来ていなかった。

「U-16代表というのが存在することも知らなかったんですよ。確かにめちゃくちゃ上手いなと思いましたが。イナ（稲本潤一）がいて、別次元のプレーをしていた。僕自身、子供の頃は練馬区の地元でマラドーナ好きの『何でもできるタイプ』だったんですが、ジェフのジュニアユースでは、レベルの高さに苦しんで、1年と2年ではポジションを獲れませんでした。そういったなかで、ボランチとして動き回って相手を潰す、そして左右に展開するプレーに切り替えた。そこを見てもらったと思うんですが……」

　合宿を経て、中東遠征の正式なメンバーに選ばれた。そこで酒井は、ジェフのスタッフに衝撃的な返事をする。

「行かないといけないですか？」

　中3の秋の出来事だ。学校の体育祭の練習が佳境に入っており、そちらに出たかった。「具体的に何かは忘れた」が、体育祭で重要な役割を任されていた。リレーの選手にもなっていた。

「何言ってんだ？　こんなチャンス、他にあるか？」

　クラブスタッフに説得され、パスポートを取得。人生で初めての海外遠征に向かった。

「チームと一緒に帰りたくない」

　その後、'97年にジェフとプロ契約を結んだ酒井は、代表チームのなかで「運もあって、生き残れた」と思っている。'99年のナイジェリアワールドユースは、トルシエの「変形3バック」のなかで、時に守備ラインやボランチにスライドできる右アウトサイドとして重宝された。

　2000年のシドニー五輪では「18人のエントリーのなかで、18番目の選手」だと思っていたが、攻守のバランスのなかで、最後の最後でこのポジションを再び与えられ、試合に出場できた。

　準々決勝のアメリカ戦では、試合終了間際に相手に痛恨のPKを与え、そこからチームはPK戦の末敗れる苦悩も味わった。この時は「チームと一緒に帰りたくない」とスタッフに申し出たほどだった。メダルを獲れる実力のチームが、自分のせいで負けたと思った。帰国後の空港では'98年フランスW杯時のような洗礼があると覚悟した。

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