フランス・フットボール通信BACK NUMBER
地中海に浮かぶ小さなフヴァル島は、
“世界一のサッカー濃度”を誇る土地。
text by
ギヨーム・バルーGuillaume Balout
photograph byFacebook Nogometni Klub Hvar
posted2019/08/24 18:00
フヴァル島で最も成功したクラブであるNKフヴァルの選手たち。大陸側のリーグにまで進出したこともあるが、現在は島のリーグにて戦う。
娯楽がまったく無い島の、唯一の楽しみ。
「ここまで娯楽色の強いリーグはクロアチアでは唯一だろう。冬の間はとりたててやることがない島の若者たちには、このリーグが不可欠なんだ」と、郡のセクレタリーを務めるディノ・クネゾビッチはいう。
彼によれば支配的なチームの不在が、このアナクロニックなリーグの形態を支えているという。
海を隔てた南のコールチュラ島は、4つあるクラブのうちひとつが3部リーグに所属し、北のブラチ島にはクラブはふたつしかない。
それに比べると……人口1000人強にひとつの割合でクラブが存在するフヴァル島は、ヨーロッパでサッカー密度が最も高い地域であるといえる。
公式な統計が存在しないので確かなことは言えないが、ひとつのリーグがカヴァーする総人口ということでは、フヴァルの優位は動かないだろう。
シェットランド諸島(英国北方の群島)はひとつのクラブ当たりの住民数は1400人であるし、ジブラルタルはおよそ2000人である。サンマリノやマルタ島のゴゾはさらに多い。フヴァルと肩を並べられるのは、ふたつのチームで伝説のリーグ戦をおこなっているシリー諸島ぐらいであろう。
この特異性が、島の盲目的愛郷心を確固としたものにしている。
4つの市と17の村からなる島には、サッカー以外のチームスポーツではハンドボールクラブがひとつあるだけである。
クラブ同士の戦いが家族同士の戦いに!?
この日おこなわれたベロ・グラブリエとNKフヴァルとの試合はヒートアップした。
ゾランとロザノのクストゥーラ兄弟が敵味方に分かれて激しくやりあったように、またブリスニクではグルジセビッチ、ブルバニではパビッチ、スタリー・グラードではトミッチの家族が一緒にプレーしているように、フヴァルリーグは家族同士の戦いでもある。ここでは昔ながらの家系が、今も厳然と地域社会に存続している。
ハーフタイム直前には、ヨージップ・ラドバノビッチ(NKフヴァル)が今季15点目となるゴールを決めた。これで彼はクロアチア首相の息子であるイビカ・プレンコビッチ(SOSKスビルチェ)を抜いて、得点ランキングの単独トップとなったのだった。