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ドイツのカップ戦は1回戦から熱狂。
5部クラブの夢と大迫勇也の洗礼。 

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島崎英純

島崎英純Hidezumi Shimazaki

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photograph byGetty Images

posted2019/08/20 19:00

ドイツのカップ戦は1回戦から熱狂。5部クラブの夢と大迫勇也の洗礼。<Number Web> photograph by Getty Images

大迫勇也擁するブレーメンが戦ったポカール1回戦、“いつもの”本拠地は、デルメンホルストサポーターの熱狂に包まれた。

前代未聞の1部本拠地での開催。

 デルメンホルストからベーザー・シュタディオンまでは直線距離で約17キロしか離れておらず、サポーターも「これなら自転車で行ける!」と大乗り気(ほんとか……)。

 またベーザー・シュタディオンの収容人数は4万1500人で、これならば両サポーターのニーズに応えられると判断したDFBは英断を下し、前代未聞の1部クラブ本拠地でのポカール開催と相成ったのです。

 面白いのは、ホームチームはあくまでもデルメンホルストであること。

 ブレーメンは、慣れ親しんだスタジアムにも関わらずアウェー扱い。事前にスタジアム施設を視察した先述のエンゲルバート会長は、ロッカールームに据えられた水風呂用の浴槽を見るなり、「試合に勝ったら、俺はこれに飛び込むぞ!」と豪語したそうです。

 案の定、チケットは発売と同時にソールドアウト。約1万2000人はデルメンホルストのファン・サポーターで、人口約7万7000人の市民の約7分の1がスタジアムに詰めかけるという一大事。街全体が沸騰したのは言うまでもありません。

 デルメンホルストはアマチュアクラブで、普段は警察官や会社員として仕事に従事する選手たちのなかにはブレーメンのサポーターもおり、かつてブレーメンのアカデミーに所属してプロを目指したものの夢叶わなかった者もいるそうです。

 そう考えると、デルメンホルストにとってこの一戦は「一生に一度しかない」、「孫にも伝えられる」、まさに“世紀の一戦”であったわけです。

大迫のゴールとアシスト後に……。

 さて、肝心要の試合ですが、この日唯一のナイトゲームで注目が集まるなか、無慈悲な一発を浴びせたのは我らが大迫!

 試合開始わずか10分に味方クロスをボレーで叩いて先制ゴールをゲットし、19分には同僚のニクラス・モイサンデルのゴールをヘディングでアシストして仁王立ち。相手が誰だろうとお構いなし。全力で戦うことで相手を敬うプロの鑑のような所作は阿修羅の如し。

 ただ、ここでデルメンホルストにハイライトシーンが訪れます。30分、敵陣右サイドを切り裂いてからのクロスがブレーメンのディフェンダーに当たりファーサイドへボールが流れたところ、駆け込んだトム・シュミットがノートラップで右足シュート! 見事に名手イリ・パブレンカの守るゴールを打ち破って1点を返したのです。

 熱狂する大観衆、煌びやかなカクテル光線に照らされたピッチで躍動するフィールド・オブ・ドリームス改め、ピッチ・オブ・ドリームス……。

【次ページ】 わが街のクラブに心血、情熱を。

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