野ボール横丁BACK NUMBER
死闘のなか星稜・奥川に活を入れた
「ジョックロック」と漢方薬。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/08/17 17:15
延長戦でのピンチを凌ぎ、雄叫びを上げた奥川(右)。
「ヨッシャー!」と声を限りに叫んだ。
その言葉通り、ジョックロックが流れると、奥川の投球はさらに力強さを増した。1-1で迎えた9回表、2アウト一塁から5番・根来塁を125キロのスライダーで空振り三振に仕留めたとき。延長12回、3者連続三振で切ったとき。タイブレークに入った延長13回、1アウト一、二塁から連続三振をマークしたとき。いずれも「ヨッシャー!」と声を限りに叫んだ。
奥川には、自分の弱さを知っている者の強さがあった。智弁和歌山打線の印象を問われ「ぜんぜん楽しみじゃない。ほんと、こわいです」と語っていたが、奥川のボールに「恐れ」は微塵も感じられなかった。
奥川は試合前、にこやかにこう語っていた。
「大事な一戦。終わったら、倒れるくらいの気持ちでいきたい」
智弁和歌山キャプテンの心遣い。
実際、倒れる寸前だった。延長11回、「投げたときに(右足が)ピーンときた」と投球後、何度もバランスを崩しかけた。足がつっていたのだ。
その裏、先頭打者は奥川だった。ネクストバッターズサークルで軽く足を引きずりながら準備をしていると、チームメイトの内山壮真が「(智弁和歌山の)黒川(史陽)キャプテンからです」とひと包みの漢方薬を届けてくれた。それを水と一緒に服むと効いたのか、以降はほとんど気にならなくなったという。
奥川は試合に勝った。だが、黒川の心遣いにこう言った。
「智弁の強さを感じました」
敵に「漢方」を送った黒川のやさしさには素直に負けを認めた。