甲子園の風BACK NUMBER
大阪桐蔭、たった1人の優勝旗返還。
届かなかった甲子園と、最後の意地。
posted2019/08/17 11:50
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph by
Kyodo News
昨年8月21日。甲子園春夏連覇を達成した大阪桐蔭高校の中川卓也主将は、新調されたばかりの深紅の大優勝旗を誇らしげに握りしめた。
それから1年。今年も夏の甲子園が開催されているが、開会式の入場行進の先頭で、優勝旗とともに行進した前年度優勝校・大阪桐蔭の選手は、主将の中野波来1人だった。
「やっぱり、全員で返しにきたかったという思いが一番強かったです。1人で返しにくるのはすごく悔しい……」
開会式のあと、中野はそう語った。
大阪桐蔭の西谷浩一監督は、今夏の大阪大会中、こう言い続けた。
「春の優勝旗は、キャプテン、副キャプテンだけで返しにいった。夏も1人でキャプテンが返しにいくということは、絶対にみんなで避けたいという、その一念を持ってずっとやっています」
しかし全員で返しにくることはかなわなかった。
「常勝軍団」と見られる中で。
大阪桐蔭は、大阪大会準々決勝で金光大阪に延長14回、タイブレークの死闘の末3-4で敗れた。
中野は、大阪桐蔭の主将としてのこの1年をこう振り返った。
「やっぱり上の代と比べられることもあったし、“常勝軍団の大阪桐蔭”と見られて、その中で勝てない苦しさであったり、悔しさが、一番大きかった」
その言葉にすべてが凝縮されている。
昨年の大阪桐蔭は圧倒的に強かった。春も夏も、ダントツの優勝候補と言われる中で、その通りに勝った。ドラフト1位でプロ入りした根尾昂、藤原恭大をはじめとするタレントが揃い、下級生の頃から経験を積んだ彼らは、個の能力が高いだけでなく、自分の役割やチームとしての戦い方、勝ち方を熟知し、勝つべくして勝った。